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2014年5月 5日 (月)

小説・薬物捜査官その9

リンク: police story 別室.
 小説・薬物捜査官 その9 
  鬼頭倒れる
 
東京・霞が関のある庁舎で極秘会議が開かれた。九州西南海沖における北朝鮮工作船に絡む殺人、漁業法違反事犯の関連捜査をしている警察の全体会議だった。会議には警視庁をはじめ大阪府警、新潟県警、宮城県警、鹿児島県警など三十六都府県警の刑事、生安、公安関係の担当者が集められた。警察庁からは関係局長、担当課長、理事官など幹部が出席している。
 各県警が担当している捜査の途中経過等が報告され、警察庁からの最終的な詰めも行われた。さらに、総合調整という名のもとで、お互いに情報を交換する場でもあった。これは〝事案の可能な限りの一本化〟という捜査方針に基づくもの。背景には将来、予想されるだろう広域かつ多様な各種犯罪に向け、日本警察の威信をかけた捜査の総合演習でもあった。
 特に注目されたのは、中国公安当局との犯罪捜査協力の進展。米国と韓国の間では、相互に犯罪人引き渡し条約があり、罪種によっては外国人被疑者の引き渡しが行われる。
 しかし、条約の締結がない国々では、自国民が犯人と特定された場合、お互いに不利になるような扱いを避けるため、罪はおろか捜査の力は及ばないことになっている。
 犯罪のグローバル化が進み、国境を越え、マフィア同士が手を結び組織化する。さらに罪種は窃盗や強盗・殺人だけでなく、それらの犯罪に薬物が絡んだり、銃器や兵器等の取引も絡むなど複雑化。
 新たな武器としてはインターネットや携帯電話という通信手段が登場するなど、これまでの捜査手法では追いつかない状況になってきた。
 日本国内では来日外国人犯罪が急増し、特に近年は中国人によるそれは組織化。つまり日本の暴力団と手を組むなどの緊急かつ重大な局面を迎えているのが現状だった。
 中国、韓国、ブラジル、イランなど各国の犯罪者が手を組むという国際的な組織化も一段と進み、犯罪収益金も金融機関の国際化も手伝ってそれぞれの国内で分配が可能な時代にある。
 このため日本警察庁は、中国公安部と連携をとる必要があるとし、この数ヶ月間で国家公安委員長をはじめ警察庁長官も中国を訪れたほか中国からも公安部の幹部が来日するなど犯罪捜査面での協力関係は、急速に進展した。
 そのような状況のなかで、北朝鮮の日本に対する国家的な犯罪に対応するためとして、捜査員を中国に派遣し同国の捜査機関である公安部の協力が得られたということは、歴史的にも意義が大きかった。
 日中両国は身柄引き渡し条約がなくても、それぞれの国で「国外犯」を適用して逮捕、それぞれの国の法律に照らして罰することも可能になったのある。
 中国の海南商会と梁伯一の捜査のため北京に派遣されていた伊藤特命捜査官が帰国。その結果が報告された。伊藤からは、次のような注目される言葉が飛び出した。
 「現地の公安部も、自国内における覚せい剤など薬物対策を強力に進めていることもあり、非常に協力的でした」
 「例の四葉銀行関係の解明に必要な日本関係者についてですが、公安部は海産物関係取引で親交がある中東貿易協力会の会長である穴守敬二郎が重要な役割を果たしていると見ております」
 「以前から取引はしていたが七、八年前にフィリピンで開かれた民間人の中東貿易会議で直接会ってから、二人の間で北朝鮮をネタにした金儲け案が浮上したそうです。話しを持ちかけたのは、梁が北と貿易交流があることを知った穴守からだったということです」
 伊藤は説明しながら、数枚の写真を出した。一枚は梁と穴守のツーショットの写真。フィリピンでの会合を終えた後、穴守が海南商会を訪れた際に撮影したものだという。
 数枚は日本宛に発送するために梱包にされた小包の写真。宛先に「日本国・中東貿易協力会、穴守敬二郎会長」の文字が見えた。さらに小包を開封した中身の写真があった。中身は白い粉で、中国公安部が日本に発送する寸前に押さえたものだという。
 「中国当局は、日本からの連絡で口座関係を調べると同時に、海南商会を手入れをして事件化したもので、小包の中身は覚せい剤でした。日本警察当局が必要なら捜査資料は提供するが梁の身柄は渡せない。なぜなら自国で罰するからだという」
 伊藤はさらに続けた。
 「中国の公安当局の事情聴取に立ち合ったと言うよりは、司法警察官の私が梁から直接、事情聴取を可能にしてくれました。その調書がこれです」
 過去に、国内に潜伏していた北朝鮮の工作員に日本人が拉致された事件があった。この事件で犯人と特定した人物が、実は韓国警察当局にスパイ容疑で逮捕されていた。
 日本警察がこの人物を拉致犯人として逮捕するためには供述調書が必要だった。そこで韓国警察当局の取った聴取書の翻訳で可能かどうか検討されたことがあった。結果は法的価値がないと判断された。
 警察庁の重森薬対課長が言った。
 「これは凄い。どうですか、これで今回の一連の事件は、ほぼ解明されたということですね。問題はこれらの小包がどうやって日本に送られることになっていたのですか?ルートと手段です」
 伊藤が答えた。
 「国際郵便でも最近は取締当局の目が厳しいため、数年前からは北朝鮮が国交のあるマレーシアの船会社からチャーターした貨物船で、自国からの輸出物である海産物を南浦(ナムホ)港から積み出し、中国の青島(チンタオ)港に寄港。そこで穴守宛てだったり朝陽商事の帳亭植宛ての荷物を積み込んでいたそうです。その伝票の写しがこれです」
 「この船会社と穴守の関係は、伯という中東では有名な貿易評論家が間に入っているようです」
 伊藤は、供述調書や関連資料を机に並べた。さらに続けた。
 「青島に寄港した貨物船は新潟西港や塩釜港などで物(ブツ)を陸揚げしていた。荷受け人により場所を変えていたというのです」
 「ちょっと待った」
 鬼頭が質問した。
 「この写真を見ると、新潟の佐渡通信の潰れた小屋から発見された小包の宛名の部分は、この写真と全く一致する。そうすると、新潟県警も絡んでくることが確実になった訳けですね」
 風間が言った。
 「捜査二課が言っていたブツの流れがこれで解決した訳だ」
 重森課長がこれに続けた。
 「よって北朝鮮の覚せい剤の国内流入ルートは、この貨物船による穴守ルートと、朝陽商事が関与したような工作船による瀬取りのルートの存在が明らかになり、篠原組や朝陽商事が操るイラン人密売人の暗躍。新潟の佐渡通信のような特殊販売ルートなども解明できたことになります」
 瀬上生安局長がこう結んだ。
 「今回の事件では、それぞれが幾つかの役割分担で進められている総合的な犯罪であること。それぞれがまとめ役として暴力団の後藤田やあるいは朝陽商事の帳、あるいは副社長の林功一、北朝鮮関係者の親族で、はい乗り者の羹。評論家と言われるブローカーなどであるが、その背後には、たまたま、まとめ役の穴守のような人物が存在した」
 「しかし、日本の法体系や与えられた捜査権からは米国のFBIの様なことは出来ません。したがって今回は、それぞれの県警がそれぞれ担当している事件で法的な手続きを含めた処理をお願いしたい。忘れないでほしいのは手続き上から一見してバラバラのように見えますが、実は、日本警察が一丸となってまとめあげた『一つの事件』であることです。本当にご苦労様でした」

 鬼頭の穴守に対する調べは十三日目に入っていた。伊藤特命捜査官が持ち帰った捜査資料は既に鬼頭の頭の中にたたき込まれていた。

 ーー穴守よ、きょうはな、お前に、素晴らしいプレゼントがあるんだ。
 「あんたのプレゼントはろくなものがない…いらないよ」
 ーーまぁ、そう見捨てたものではないですよ。
 鬼頭は伊藤特命捜査官の捜査結果を詳細に説明した。そして最後に、
 ーーこれが、君に対するプレゼントだ。もう良いだろう?…
 鬼頭の声のトーンはなぜか力がなかった。後方のデスクでメモをしていた城西書の捜査主任が鬼頭の顔をのぞき込んだ。
 穴守は、天井の一点をジーッと見つめていた。三人の動きが止まった。鬼頭には〝刑事熱〟はなかった。気怠さだけがあった。沈黙はさらに続いた。
 「刑事さん…恐れ入りました。いつもこんな理詰めの調べをなさるのですか?。全部認めますので、記録して下さい」
 穴守が完全に落ちた瞬間だった。七月十六日午後三時八分。穴守は「理詰めの調べ」と言ったが、調べに付き合った捜査主任は「理詰めより重詰め」の調べだと思った。
 ーーきょうは、ゆっくり休んでいいから…。明日からいよいよ調書を書くことになります。君と二人で書こうな…。
 鬼頭の穴守を見る目に涙が浮かんでいた。穴守もまた、鬼頭に「お願いします」とすがりつくような目で見つめ返した。なぜか?鬼頭は穴守が憎めなかった。
 翌日からは、供述調書のまとめに入った。しかし、鬼頭の心の中には「私情を挟んではいけない」の言葉だけが気になっていた。
 「私の生まれたところからは…」から始まり、家庭環境から生い立ち、事件の経緯を話し言葉で綴られる。そして最後に、被疑者本人が署名・捺印して終わるのだ。こうして、第二拘留の二十日いっぱいでまとめ上げられた。
 供述調書の作成を全て終えた鬼頭が署長室を訪れた。調べ室を出る時から足がふらついていた。署長に終了報告に来たのだ。署長の机の前に進もうとした鬼頭の足が、もつれた。立っていられなかった。
 「鬼頭君」と呼ぶ野口署長の声が…遠くで聞こえた。
 城西書に救急車が呼ばれた。署長は警務の女性と生安の少年係り主任の二人に付き添いを命じた。そして救急隊員に言った。
 「こちらかも手配しておきますが、特異な病気でなければ、しかも緊急かつ重篤な状況でなければ可能なかぎり警察病院に収容してほしいのですが…」
 救急車には救命救急医が搭乗してやり、野口署長の方針通り、飯田橋の警察病院に収容された。

 飯田橋の警察病院では、一日半も眠り続けている鬼頭に妻の絵美が付き添っていた。警察庁の重森課長が風間理事官と一緒にやって来た。重森が絵美に聞いた。
 「奥さん、どう?あれから全然、目を開けないのですか…」
 絵美が答えた。
 「はい、先生も心配してくれるのですが…時々、苦しそうにうめくことがあるんです…何か言いたいように…目をさますかなぁと思うんですが…すぐまたイビキなんです…」
 風間が重森に説明するように言った。
 「心電図も脳波にも大きな異常は認められないということだそうです」
 重森が怪訝な顔で聞き返した。
 「大きな異常とは…どんなことなの?。小さな異常はあるんですか?」
 絵美が答えた。
 「いや…あの…こんな状況だから正確な検査ではないので…簡易検査だから…とお医者さんは言っておられました」
 「それで、病名は?」
 重森の問いに、風間が答えた。
 「年齢で肉体も心臓も弱っているのに、無理をしたための過労ではないかと…医者としては動けるようになってから検査をすると言うのです。一カ月は休ませようかと思っています」
 「一カ月でも二カ月でも…あんな重大な困難な事件を完落ちさせたんだから…日本警察の財産なんだから…鬼頭さんは…」
 風間が重森に話し出した。
 「鬼頭警部が倒れたその日の夜、私は城西署で野口署長とともに穴守の供述調書を読ませてもらいました。その時に署長室に同席した城西の生安課の警部補なんですが、こんなことを言うんですね。『鬼頭さんの調べには驚きました』と…」
 風間は続けた。絵美も聞いていた。
 「そして、被疑者がですよ。最後に鬼頭に向かってこう言ったそうです。『刑事さん、恐れ入りました。いつもこんな理詰めの調べをするんですか?全部認めます』とね。とにかく、ある時は静かに、そしてある時は大声で攻める。冗談も飛び出したり、ここだと思った瞬間、機関銃のごとく、ズバッ、ズバッと証拠を羅列するそうです。その主任は『まるでベートーベンの運命という音楽を聴いているようだった』と表現していました。そして、『理詰めの調べ』と言うよりは、諺に例えて『理詰めより重詰め』の調べだと言うんです。改めて凄い人なんだと思いました」
 風間のこの話しを聞きながら、重森は鬼頭の手を握りしめた。微かに握りかえしたような気がした。

 「貴方っ=アナタッ=どうなさったの=」
 うなされながら苦しそうにもがいている鬼頭を見て、絵美が鬼頭の体を揺すった。
 「貴方=お願い=目を覚ましてちょうだい=」
 「重森さんも風間さんも…みんな来て下さっているのよ=アナタッ=」
 鬼頭の額には汗が噴き出ていた。絵美はナースコールを押した。
 「どうなさいました」
 看護師さんが駆けつけてくれた。
 「主人がうなされてばかりで、ちっとも目を覚まさないのです…」
 看護師は、手で頬をタタキながら、耳元で大声を出した。
 「鬼頭さん=鬼頭さん=」
 何十秒かあと、鬼頭が目を開けた。
 「アナターッ」
 絵美がベッドにすがって泣き出した。
 「良かったぁ」
 重森と風間は言葉を失っていた。間もなく医者も駆けつけ、聴診器を当てながら鬼頭に向かって言った。
 「心配しましたよ鬼頭さん。年なんだからね」
 鬼頭はうつろな目で重森と風間を見上げて、何かを言おうとした。風間が言った。
 「よく眠っていたなぁ。ここ一年分の寝不足を取り戻したか?」
 風間の目頭が熱くなった。重森は、そっと目を拭いた。
 医師が絵美、重森、風間の三人に説明を始めた。
 「ようやく目を覚ましました。年が年だけにね、本来なら、いたわらなければならないのに、事件で忙しかったのでしょう。商売だからしょうがないとしてもね。心臓も段々弱くなって来ているのに加えて、寝不足による疲労が蓄積したものと見られます。血液検査結果を見ても異常なし。脳波も異常ありませんでしたが、心電図で不整脈が出ているようですので気をつけることです。数日間で退院できるでしょう」
 水を飲みたいという鬼頭に絵美が、白湯を差し出した。美味そうに本当に美味そうに鬼頭は飲んだ。風間も重森もこんな美味そうな飲み方は見たことがなかった。
 「申し訳ありません。ここはどこか…自分がどんな状況か…のみ込めなかったものですから…」
 風間が鬼頭と重森を見ながら話し始めた。
 「いゃぁビックリしたよ。城西の野口署長から電話があってね、『鬼頭君が倒れた』と言うんです。それでここに飛んで来たんですが…点滴ばかりで話せなかった。それで城西署に戻り鬼頭警部の調書を見せて貰ったのです」
 重森が鬼頭の手を握りしめながら言った。
 「本当にありがとう。命を賭けた捜査でしたね。お陰様で…我々の希望通り全部が身柄とも送検でき、起訴もできました。長官も次長も君のことを心配していましたよ。ゆっくり休んで…なんだったら奥さんとゆっくり温泉にでも行って癒して下さい」
 暖かい言葉だった。
 鬼頭は病院内で一人でいるときはベッドでボケーッとしていることが多かった。ただ、一点をジーット見つめているのである。看護師たちも、そんな鬼頭を見て心配していた。
 それから五日後だった。鬼頭に退院の勧告が出された。妻の絵美と幸子が迎えに来てくれた。鬼頭はその足で、城西署に挨拶した。出迎えてくれた野口署長をはじめ署員から「退院おめでとう」の花束が贈られた。

 退院して一週間ぶりに新橋分室に出勤した。風間理事官が待っていた。
 「どうしたんだよ、元気がないようですね。まだ、休んだほうが…」
 鬼頭は、体の病と言うよりは心の病だとは言えなかった。
 「申し訳ありませんでした。お陰様で…病気で入院なんて…初めてですよ。脳がないので体だけが自慢だったのに…」
 あまりの鬼頭のみすぼらしさに、風間はジョークを飲み込んだ。
 「鬼頭君ね、警察庁の重森課長からなんだが…、今回の一連の事件を重森課長が警察庁としての報告書を出すらしいんだ。それで、問い合わせが来た場合は警視庁の特命捜査官として警察庁に協力をしてもらえるかな?」
 鬼頭自身、捜査本部としてこれまでの資料を整理して保存しなければならないので、おおいに結構な話である。
 「分かりました。よろこんで…」
 この言い方に、風間はジョークと気づくかなと思ったら…
 「なんだか…そんな飲み屋があったよな。何を注文しても『よろこんで』としか言わない飲み屋がなぁ。休みボケしてんじゃぁないの…」
 今回の事件の捜査関係資料は、城西署と下町署にあるため鬼頭と伊藤、それに榊原の三人はそれぞれの担当ごとに所轄に出向き、整理を始めた。
 そんなある日、城西署にいる鬼頭に風間から電話があった。
 「鬼頭君な…ちょっと相談したいことがあるので…部長室に一緒に行けないかね…永堀部長が…来てくれないかと言うんだ。急ぐ話しではないらしいんだが…」
 鬼頭は「とうとう、来たか?」と思った。午後四時丁度に、本部生安部長室に行くことを約束した。

 「やぁ、今回の事件はご苦労様でした。それに体のほうは大丈夫ですか?心配しておりましたよ」
 部長は笑顔で鬼頭を迎えてくれた。そしてさらに続けた。
 「今度の事件では、海保の一件もあって、警視庁をはじめ各県警の努力に警察庁長官が賞を出す方針で進めているそうだよ。それにしても、これほど警察全体が燃えたのは歴史に残るのではないかとね…」
 風間が続けた。
「重森さんが事件の報告書を作成するらしいですね。鬼頭君を応援に…」
 鬼頭は黙っていた。永堀が話し出した。
 「風間君も聞いてほしいのだが…鬼頭君は特に冷静に聞いて下さい」
 永堀はこうして、今回二人を部長室に呼んだ理由を話し出した。
 「鬼頭君にちょっと、聞きたいことがあるのですが…いいですかね?」
 風間は、身を乗り出して聞いた。
 「なんですか?」
 鬼頭の顔が歪んだように見えた。
 「今回の事件の取り調べ状況報告書を見ました。そこで鬼頭君にお伺いしたいのだが…勿論、野口署長とも相談した上での話しですよ。私の個人的な意見として捉えてもらってもいいのだが…どうも…調べが厳しすぎるのではないかと思えてならないのですよ…」
 永堀部長の言葉は鬼頭の予想から外れていた。取りあえず次の言葉を待つことにして、首をかしげただけだった。
 「理事官も聞いて下さいね。鬼頭君の調べが悪いというのではないので誤解しないように…。この取り調べ状況報告書は鬼頭君も了解のもと書かれたのかね」
 鬼頭は風間と永堀の顔を交互に見ながら答えた。
 「その通りです。いけませんか?」
 鬼頭はさらに続けようとした時、風間が制した。
 「ちょっと待った。部長ね。部長もあの調書を読んだでしょう。どこもおかしくないよ。何処に問題があると言うのかね。立派に落としているではないですか?それに、検事からも『よく落としましたね』と言われているんですよ。何処に問題があるというのですか?」
 風間の声が怒鳴り声のように部長室に響き渡った。制止しようとした永堀もビックリした様子で聞いていた。
 永堀が風間の言葉を止めるように言った。
 「俺が言いたいのは、胸ぐらを掴んだとか、髪の毛を引っ張ったとかさ…これをそのままストレート表現でなくても良いのではないかと言いたいんだよ」
 風間の顔から興奮が消えた。鬼頭が続けた。
 「私の意見ですが…穴守は公判廷では、その部分を問題にするとこはないような気がしますし…ですから…別に報告書はあくまでも報告書ですから…」
 永堀が言った。
 「鬼頭君のこれまでの調べは、僕も何度も聞いているし、取り調べの報告書も見ているつもりなんだよ。だからこそ、何で今回だけ感じが違うのかと心配したまでだ」
 三人はそれぞれ納得した。後日、事件の打ち上げを企画をするようにと永堀は風間に注文した。そして永堀が言った。
 「警察庁のほうでは長官賞を検討しているようなので、それが出た段階で総監賞団体賞、さらに個人賞を出すようにして下さいよ」
 風間と鬼頭は部長室を引き揚げた。
おわり

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