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2014年5月 5日 (月)

小説・薬物捜査官 その7

リンク: police story 別室.
 小説・薬物捜査官 その7
   赤いベンツを追え
 警視庁生安部の会議室で、緊急会議が開かれた。永堀生安部長以下、生安部の各課長と特命捜査官室からは風間理事官、榊原警部、鬼頭捜査官が呼ばれた。さらに城西署と下町署からはそれぞれ、生安課長と係長が出席していた。
 多摩川署と新潟県警の家宅捜索で東京四葉銀行の「キカワダスズコ」名義の口座が明らかになったことを受け、朝陽商事の捜索方針についての打ち合わせだった。
 生安企画課長のベーヤンこと別所が口火を切った。
 別所は大阪府警のナンバーワン調べ官として佐々木検事正も認める別所警部補の兄だった。
 「鬼頭警部はご苦労さんでした。実は多摩川署と淀橋西署で追っていた新宿区大久保の焼き肉屋ジュウジュウの経営者で淋公平など関係筋を捜索した結果、淋の法人口座である東京四葉銀行普通782××××から、三百万円と四百五十万円が二回、同じ銀行の横浜支店普通678××××のキカワダスズコ名義人の口座に振り込まれていたことから、口座を凍結していました」
 その理由について薬対課長の龍山が説明を始めた。
 「三百万円と四百五十万円が振り込まれた時期がいずれも、横浜税関からの連絡で中国から調布の山本物産宛てにコンテナが届けられた二週間後になっていました。コントロールドデリバリー捜査の結果、コンテナは明らかに覚せい剤の密輸入だったことから、不正の疑いのある口座として捜査関係事項照会で凍結したというものです」
 別所課長が続けた。
 「ようするに不正の疑いとは、完全なる覚せい剤など薬物の口座なのか、あるいは税金のがれなのか、架空会社のうかい口座なのか、はたまた地下銀行に繋がる口座なのか幅広い見方をする必要があると判断したのです。結論的に言うなら組織犯罪の陰がちらついたことから、刑事部と相談した結果、捜査二課にお願いした訳です」
 永堀が補則説明を続けた。
 「生安で受けても良かったのですが、生経が実は大きな別の山を抱えており、身動きが取れない状態なのです」
 さらに続けた。
 「したがって朝陽商事の件ですが、捜査二課のこれまでの捜査でキカワダの口座には、MFG銀行新宿支店普通348××××で、帳亭植名義人からも毎月八十万円から九十万円が振り込まれていることが分かったのです。刑事部は朝陽は生安がやっているので、情報提供してきた訳です」
 今度はベーヤンが結論付けた。
 「したがってだ。朝陽に対する目標はなぜ不正な口座に送金しているのか。送金していた理由を解明しなくてはならない。同時に年商四億八千万円の企業の実体解明と、さらに逮捕したイラン人の関係、押収した携帯から出た指紋等々を総合すると北朝鮮工作船との薬物取引の関係が出てくることになる可能性が極めて高い…」
 ベーヤンは唇を舌でなめながら続けた。
 「それに新潟県警が、破産した女性がヤミ金から借金してトラブルになった事件があるだろう。あれで逮捕した朝陽の社員が『都内などで秘密の金融を営んでいる』と証言した」
 永堀部長が説明に立った。
 「ベーヤンの言うことだが、監視を続けた結果、都内のアパートを借りて取り立てをしている実体が把握された。今のところ五グループを確認しており、捜索と同時に一斉逮捕したい。残りは今も泳がせている朝陽の社員をいつ確保するかだ」
 さらに…
 「こうなれば国税ではなく、こっちが主導権をとらないといけない。何故なら緊急性が出たからですよ。ねぇ鬼頭さんよ。捜索令状を刑事局長に叩きつけてやりましょうよ」
 風間理事官が声を出して笑った。
 「ふっふっ。調子が出てきたな。警視庁をなめるなってかね。ようし明日にでもやりましょう」
 ベーヤンが答えた。
 「容疑はあくまでも既に令状をとっている貸金業の規制等に関する法律違反で十分でしょう」
 風間が意見を述べるように言った。
 「どうだろう鬼頭君。追っかけている朝陽の覚せい剤密売容疑の小塚健作なんだが、もういいだろう」
 鬼頭が答えた。
 「何時でもいいのですが…。本当は帳の引きネタまで伸ばしたかっただけですよ。別件、別件とうるさいのでね」
 城西署の生安課長が発言した。
 「鬼頭さんにも伝えてありますが、例の小塚が新宿のあるホテルに出入りしていることが分かり張り込みをかけた結果、そのホテルにはイラン人二十人ぐらい寝泊まりしていることを確認した件ですが、あれどうしましょうか?打ち込みますか?」
 永堀部長が身を乗り出した。
 「そうそうそれ。そのイラン人は覚せい剤密売人と言えるのかね?」
 生安課長が「私でいいですか?」と鬼頭に目で聞いた。鬼頭はどうぞと合図した。
 「先日、所持で捕まえたイラン人は喋ってはいませんが、同じホテルに住んでいて原宿あたりで似顔絵を描いていたのです」
 鬼頭が続けた。
 「ですからね、帳を捕まえる前触れのネタだけにはしたくないのですよ。やるんだったら同時なんですよ。先にやると必ず組織で隠滅されるから…」
 「あくまでも狙いは隠しておきましょうよ。海保の関係もあり警察庁の重森さんも、それで良いのでは?と言っていますので…」
 これを受けて永堀が最終決定を出した。
 「よし、決まりました。そのイラン人のホテル。そしてヤミ金催促係りの部屋となっているアパート。本件の朝陽商事本体。GO=GO=ですな。で、警察庁へは私のほうから言っておきます」
 こうして、朝陽商事に対する家宅捜索は新たに請求する捜索令状が降りた翌日と決定した。警視庁は緊急のための実施であり、国税の都合は関係なかった。
 その日の夕方、新橋の特命捜査官室に警察庁の瀬上生安局長から電話が入った。警察庁の局長から部長を通り越して直接、電話が入るなんて前代未聞だった。電話は風間宛だった。
 「風間さんですか、警察庁の瀬上です。永堀君に電話したらこの番号に架けろと言われたので架けました。内容は聞きました。おめでとう。今後も頼みますよ。あのあとね、田中局長と話したのですが、本人がもの凄く気にしているらしく、謝ってくれ、謝ってくれってね。いゃ本当にやっぱり警視庁ですね。重森と話したのですが鬼頭捜査官の役目には長官も納得するはずですので…安心しました」
 さらに瀬上は続けた。
 「ところで国税の件ですが、国税の捜索は延期になったそうです。『警視庁から告発を受けて脱税で立件』という筋書きが出来ました。今回は思う存分やって下さい。実は國島長官と国税庁長官は大学時代の同期らしいのです。その辺で話しがついたのではないでしょうか。鬼頭捜査官によろしくと吉川次長も言っておりました」
 捜索令状は二日後に降りた。警視庁は城西署に「商事会社に絡む金融犯罪捜査本部」を設置した。薬物の文字は伏せられた。
 警視庁の家宅捜索は新潟県警を遙かに上回った。朝陽商事の本社はもとより帳社長の自宅。副社長や総務・経理担当役員自宅から社長の親類、親密な交際のある女性宅。そして都内のヤミ金の催促の部屋であるアパート五部屋、さらにイラン人の住むマンションを含めると二十九カ所の令状だった。
 用意された逮捕状は、覚せい剤密売の小塚とヤミ金の電話による取り立ての責任者である藤川一朗ら五人の計六本。そして、何時でも逮捕ができるように帳亭植には数日前から二十四時間の見張りがついた。
 動員される捜査員は二百五十人。この捜査員の中には公安部外事課の捜査員も含まれていた。
 午前八時に逮捕状が出ていた六人全員が逮捕され、捜索も同時に始められた。
 ヤミ金取り立て責任者五人の部屋に入った捜査員が、初めに指示されていたのは五人が朝陽商事の社員であることの確認だった。身分証明は持っていないが、その場で押さえた資料に朝陽商事を示す何かがあることに期待が寄せられていた。
 その結果、キャッシュカード七枚が発見された。そのうちの一枚が「法人・朝陽商事」だったことから、捜査本部に連絡され経営者の帳亭植(五十四歳)の逮捕状が請求された。容疑は「貸金業の規制等に関する法律違反」だった。
 帳に対する逮捕令状が降りたのは午後三時過ぎ。千代田署で任意の聴取を受けていた帳容疑者が逮捕され、下町署に移された。城西署を避けたのは、小塚などの関係者が多いことだ。
 イラン人の住んでいるマンションへの捜索は機動隊まで動員され、五十人の捜査員が一斉に踏み込んだ。部屋数は七部屋あった。二十人がいると思われていたが十八人の身柄が確保された。いずれもパスポートは所持していたものの期限が切れたり、観光ビザ(査証)での違法な入国だった。
 捜索を進めているうちに覚せい剤と見られるパケが大量に入ったスーツケース一個が発見された。さらに五百万円は超えると思われる現金。銀行への送金表が数十枚。絵を描く道具類など押収品は七、八十点にのぼった。
 捜査員が「これは、全員の物か?」と確認したら認めたので、イラン人十八人は覚せい剤所持の共謀共同正犯の現行犯で逮捕された。
 アラビア文字で書かれたノートも多数、押収された。
 捜索が終了したのは午後九時を過ぎたところもあった。押収品は段ボール箱百箱近くにも及んだ。
 注目されたのは帳社長の専用ベンツを含む三台の乗用車の押収だった。これは名目上はいずれもオービスから判明した十㌔前後の速度超過だったが、背景には工作船が九州薩摩半島周辺で暗躍した当時のNシステムでヒットした地点を確認し、乗用車の行動を解明するためだった。
 押収したベンツのナンバーは帳社長専用の黒色が「品川 300 8×××」。副社長の林功一の赤いベンツが「品川 300 ××14」。帳社長の二台目の白色のベンツは「品川 300 ×500」。
 城西署では捜査着手時から分かっていた三台のベンツの車両番号をNシステムで検索していた。その結果、北朝鮮工作船から押収した携帯電話の通信記録があった平成十三年九月××日の午後一時五十二分に九州自動車道路の「えびのジャンクション」で「品川 300 ××14」の番号がヒットしたため、車両の押収が必要だった。
 それは、林功一副社長の赤ベンツだった。通信相手の携帯は090ー880×ー2×××。所有者は法人で朝陽商事。
 このため捜査本部は、押収した赤いベンツのカーナビの巻き戻し作業をして調べた結果、次のような行動が確認された。
 同ベンツは、二、三百㍍ずつ黒い点でマーカーされるカーナビを使用しており、その行跡は黒点の数が多くなればなるほど点が線になり、さらに多くなると真っ黒の太い線となる。黒線の太さから回数は分からないものの利用頻度が分かるシステムだ。
 詳細な日時は不明なるも「品川 300 ××14」の場合は、東京都世田谷区の用賀入口から浜松西インターまでの東名高速の通過回数が最も多く真っ黒の太い線の状態で何度も往復していることが伺えた。
 浜松インターで降りた行跡は浜名湖のゴルフ場まで続いており、やはり回数が多いためか太い線となっていた。しかし、その先の愛知県豊田までが次に多く利用していることが分かった。豊田市内ではホテルや観光地まで行跡が伸びていた。
 さらに同ベンツの場合は、東名高速道の宝塚まで数回の往復記録があるほか、山陽自動車道以西では、二回の往復行跡が記録されていた。
 その最南端は山陽自動車道から九州自動車道に入り、福岡インターを通過、さらに太宰府、筑紫野、熊本県の八代を通過して鹿児島県内に入り、鹿児島インターから指宿スカイラインを利用していた。
 指宿スカイラインの終点・頴娃町で一般道路に。右折して頴娃町内を進み海岸線の226号に突き当たり、その国道を東西に黒い線になるまで何度も行き来している行跡が確認された。
 こうしたことから捜査本部は、赤いベンツの行跡をNシステムと比較して分析した結果、平成十三年九月××日の午後一時五十二分ごろ、「えびのジャンクション」を通過。その前後に090ー880×ー××の携帯と工作船から押収した携帯で通話した後、揖宿郡の頴娃町海岸を走行していたことが裏付けられたとしている。
 さらに国道と平行して走る指宿枕崎線の石垣駅近くにある国道226号交差点にあるNシステムには九月××日午後八時四分に西進、同十時十五分に東進の記録があった。
 この間の午後九時二十三分と同九四十五分の二度、押収携帯との通話記録もあった。
 その翌日には西馬渡交差点で午前十時四十三分に西進の記録が残されていた。この記録の八分後に最後の通話記録が確認されている。
 このため捜査本部は、米国から衛星写真の記録を取り寄せ、九月××日の午後一時から同五時ごろまでの時間帯に、指宿海岸線の港や小型船の接岸可能な地点に船影が無いかどうかの確認作業を実施した。
 この結果、漁船と思われる大小の船影が多数確認されたものの、北朝鮮の工作船か否かの確認はできなかった。
 赤いベンツのカーナビ行跡は、頴娃町の海岸にあるレストラン駐車場で黒点が止るなど数カ所の海岸線のレストランあるいは駐車場で同様の記録が確認された。
 報告を受けた鬼頭のアドレナリンは最高潮に達し、風間理事官に提案した。
 「今回の一連の事件では、北朝鮮の工作員の国内における暗躍が確認できる最大のポイントとなる部分になると思います。海保の報告書にあった部分を立証しようではありませんか」
 風間が聞き返した。
 「海保の報告書の部分?」
 鬼頭は報告書を風間の前に示しなが言った。
 「この部分ですよ」
 鬼頭が指さした部分を風間が読んだ。
 ……鹿児島県の薩摩半島南東部の海岸線の地形にある施設などが示されている地図を発見したことから報告書で海上保安庁は、今回の事件を次のように結論付けた。
 ①今回の工作船は以前から九州周辺海域を活動区域として覚せい剤の運搬や受渡しのために使用されていた疑いが濃厚である
 ②地図の発見から、搭載されていた小舟等を使用して沿岸部に接近し覚せい剤の受渡しのほか、工作員を不法出入国させスパイ活動等を展開していた可能性もある
 ③そのほか何らかの重大犯罪に利用された可能性も否定できない。
 読み終えた風間が言った。
 「なるほど…それで、これを立証するために捜査員を派遣しろと言うのかね?出来るかな…?」
 鬼頭が答えた。
 「赤いベンツなんていう車は少ないなずです。薩摩半島がいくら観光地でも、特徴がありすぎる。やるべきです」
 鬼頭の提案に、捜査本部は目撃情報の取得のため現地に捜査員を派遣。北朝鮮工作船の船員などと赤いベンツの利用者が接触した事実の確認を急ぐことになった。

 一方、押収した預金通帳の金の出入りをチェックした結果、北朝鮮工作船から押収された携帯と朝陽商事の固定電話との通信記録があった三日後に、MFG銀行新宿支店の普通3487×××から、東京四葉銀行横浜支店普通678××××のキカワダスズコ名義の口座に五百万円が振り込まれているのを確認した。
 同口座には毎月八十万円から九十八万円が振り込まれていたことも確認された。
 今回の捜索の結果、次のような事実が明らかになった。
 ①潰された携帯から朝陽商事との通話が確認された。
 ②それらの携帯から密売人として逮捕したイラン人の指紋が確認された。
 ③そのイラン人が覚せい剤を所持。さらに十七人の計十八人の密売人を逮捕した。
 ④朝陽商事と北工作船の通話記録が乗組員の携帯に残されていた。
 ⑤朝陽の役員が使用しているベンツが通話記録の日時ごろ、工作船から押収された地図付近に行っている。
⑥朝陽商事の金の流れからキカワダ名義の口座に多額の現金が振り込まれていた。
 捜査本部は、これらのデータをもとに覚せい剤の流通経路の突き上げ捜査から帳容疑者、林容疑者の関与による覚せい剤密売組織の全容解明を進める。
 さらに、数百万円が何の目的でキカワダの口座に振り込まれ、さらにそれがどこに送金されているかの詰めの捜査から北朝鮮工作船との関係の解明を進めていく方針を確認。警察庁の重森課長に報告された。
 警視庁新橋庁舎の特命捜査官室に警察庁の重森が突然、訪れた。城西署の捜査本部に行く前に鬼頭と風間が談笑していた最中だった。
 「あれっ=、重森課長、どうなさいました」
 後ろ向きになっていた鬼頭が風間の声にびっくりした。「また、理事官のジョークが飛び出すのか?」と思ったら、本物の重森課長だった。
 「いゃ、本当に一昨日はご苦労様でした。あの自動車のカーナビによる行動解明は実に素晴らしかった。どうしてあのような発想がでるんですかね?」
 風間が喋りだした。
 「ある時、この部屋でゴルフの話しで盛り上がったことがあったのですよ。私が群馬県のゴルフ場から帰る時、いつも道を間違えて困るという話しになったんですよ。そしたら鬼頭君がカーナビぐらい持っていないのかと俺をバカにしたんですよ」
 馬鹿にしていませんよ…と鬼頭のむきになる顔を見ながら風間が続けた。
 「『いちいち音声案内なんて入れている奴はいないの=』って言ったら、鬼頭君が『何度も間違うんだったら原因を捜すのが警察官だろう』って言うんですよ。なんの拍子か思い出せないのですが、その時だよね確か…。カーナビは巻き戻しはできないのか?と誰かが言い出した」
 鬼頭は風間から、いつジョークが飛び出すかと待っていた。
 「俺と鬼頭君はね、ほら、ツーカー(通過)の仲だから『そうだ、通過地点を覚えておけば良いんだ』と思ったんですよ」
 重森は、風間のこのジョークをとり入れた会話に、特命室の素晴らしい雰囲気を感じた。そして風間の言葉を奪った。
 「二人はまさにツーカーの仲のようだが、それで通過地点の場所がカーナビから分析した?という訳ですか…。その後は二(ツー)度と間違えなかったが落ちですね」
 「そうなんですが…まだあるんです。結論を急がない…」
 「失礼しました」と重森。
 「それで、鬼頭君が『カーナビなんか知らない』と言うんですよ。田舎者だから…」
 「知らないなんて言っていませんよ…持っていないっていったんですよ」
 鬼頭がまた向きになって反論した。ニヤニヤしながら風間が続けた。
 「それでですね課長。ここからが面白いんです。次の日曜日の朝早くに、七時ごろですよ鬼頭君が俺の家に来たんですよ。『理事官、カーナビ見せろ』ってね。こっちは寝ていたんだからさ。なんだろうと思っていたら『これを捜査に利用できないだろうか』と言うんですよ」
 お茶をすすり、一呼吸おいてから風間はさらに
 「ほら、今回の工作船の事件。正直言って、〝天下の海保〟も出来なかった、しかも、古い話しをどうして巻き戻すかだけを考えていたんですよ。そうしたらさ、カーナビを巻き戻せって言うんですよ。驚きましたよ」
 「それでどんな形で出てきたんですか?」
 重森はカーナビは持っていたが、巻き戻すという発想はまったく無かった。
 「それで、巻き戻したら画面に以前に走った行跡というか、要するに足跡が点々とでたんですよ。黒い点で…」
 風間は鬼頭の顔を見ながら自慢げに話すのだった。この発想が、今回のNシステムとの連動に結び付くことになったというのだ。
 「いゃ、感動する話しでした。参りました。総監賞ものですな」
 重森は、発想の転換の重要性を知らされた。柔らかな発想の転換。「この理事官ありでこの部下が生まれる」かと…。
 重森課長の携帯が鳴った。警察庁薬対の理事官からだった。重森は「大阪府警から…?」の言葉を残して、そそくさと帰って行った。

 重森への電話は、大阪府警の生安総務課長からだった。
 「生総課長です。警視庁と新潟県警は順調に進んでいるようですが、こっちもようやく傍受の令状が降りました。それで、どうでしょうか、警視庁の鬼頭さんは来られる余裕はありますかね」
 前回の傍受は、携帯の通信状態が悪く聞き取れなかった。その府警が再度の傍受令状をとったという。重森は鬼頭を大阪府警に派遣させたかった。府警の薬物捜査の神様であるベーやんこと別所と鬼頭を会わせたかったのだ。
 別所の持つ百発百中の勘は、誰にも真似ることは出来ない。しかし、薬物捜査官として流れるように捜査を導く手法を別所に伝承できれば、別所はまだ若いだけに警察庁指定の特命捜査官にもなれるのだが…と重森は考えていた。
 重森の電話を受けた風間も、同様に二つ返事で出してやりたかった。しかし、警視庁城西署の捜査本部も朝陽商事の捜査がようやく〝板に付いた〟ばかりだったと考えた。果たして鬼頭が「うん」と言うだろうか。
 「そうですね。これまでの捜査で新潟県警と宮城県警、新潟県警と警視庁など関連付けが多いという流れになってきていますね。府警は篠原組でしたっけ?」
 重森は、渋りがちの風間の心が読み取れた。
 「その通りなんです。私の勘だが府警も鬼頭さんを呼んだからには何かがあるのではないかと思われるんですよ」
 ようするに鬼頭の大阪派遣は、重森の思いつきではなく府警が希望しての要請だったことを強調した。
 「えっ、府警が呼んだのですか?俺はまた、あまり出しゃばるのもいかがなものかと思い、遠慮していたものですから…」
 「気を使っていますねぇ。関係県警に対するご配慮にはいつも頭が下がります」
 重森は感心した。鬼頭はこんな上司に恵まれて幸せだろうと思った。同時に重森は自らの鏡にもしたいと…。
 キャリア、キャリアと一線の職人刑事たちからは、「頭だけの警察官」とののしられることもある。「頭でっかち幹部」だけにはなりたくなかった。
 鬼頭は城西署に着いたばかりだった。それは風間からの電話だった。
 「はい、鬼頭です。えっ、大阪府警ですか?」
 しばらく鬼頭は考えた。
 「それではちょっと…本部長に聞いてから返事しますから…」
 鬼頭が即答を避けたのには訳があった。それは、この一連の事件の頂上は、警視庁が今回逮捕した朝陽商事の帳亭植ではないかと思っていたからだ。もしそうだとすると、帳の調べは自分しかないと自負していた。
 果たして自分は、〝男芸者(幇間)〟の様に、ただ、あっちこっちに行くだけが特命捜査官なのだろうかと疑問を持ち始めていた。刑事は自分が事件を請け負い、そして組み立てて解決して初めて刑事になれるのだと…。
 「それなのに、自分は…」
 心の中では「俺は刑事だ。指導官ではない」という葛藤があった。
 しかし、その思いは新潟県警の捜索の時に変化が起きた。
 あれはガサに向かうための打ち合わせが済んだときだった。県警捜査一課係長の平井警部が鬼頭に向かって言った言葉だ。
 「現場には素人が多いから…説明してやってくれませんか」。その言葉が何故か妙に心に残っていた。定年まであと二年。検挙率が落ちている警察の現状を憂えれば、果たして「自分が」「自分が」としゃしゃり出るだけで良いのだろうか。
 平井警部は県警捜査一課の係長で調べ官でもある。一度、羹を調べたときには、素晴らしい調べだった。しかし、一斉逮捕・捜索後の羹の取り調べは「覚せい剤が関係する」という理由から保安課の警部に代わった。
 鬼頭は、調べ官を外れた平井に同情したが平井は何一つ文句を言わなかった。「これが組織なのか」と自分だったら不満を現すだろうが、表情さえ変えなかった平井に自分の修行のなさを感じた。
 だとすれば、風間の大阪府警への要請を「本部長に聞いてから…」などと言ってしまったことに反省しなければならなかった。
 「直属の上司になんてことを…」
 と思いながら署長室に向かった。署長は風間の一年先輩の野口だった。署長室に入るとソファーに座っていた。
 「失礼します。相談があって来ました」
 鬼頭の言葉に野口署長は、既に分かっていたかの様に振る舞った。
 「大阪府警の件ですか?」
 「署長、どうして分かっているのですか?」
 「鬼頭さんよ。俺と風間は十年近くも一緒に仕事をしているんですよ。先ほど電話がありました。風間は何を遠慮しているのか何を迷っているのか心配していましたよ」
 「分かりました。言ってもいいでしょうか」
 鬼頭は反省の意を込めて言った。
 「大阪府警の希望だそうですよ。貴方が心にひっかかっているのは『頂上の帳を捕ったのに…』ではないかな?君らしくないですね」
 鬼頭は参った。野口署長はそこまで読んでいたのだろうか。心の隙を読まれたようで恥ずかしくなった。部屋を出る時、野口が言った。
 「鬼頭君、虚心坦懐ですよ」
 その言葉は、鬼頭の心にグサリと刺さった。
 
 鬼頭が府警に到着したのは午後八時半を過ぎていた。課長室で生安総務課長ともう一人の男が談笑していた。入り口で鬼頭の姿を見た課長が立ち上がった。府警の生安総務課は警視庁より狭かった。机の上は書類であふれていた。鬼頭が見回していると生総課長が説明してくれた。
 「警視庁さんと違って、うちは狭いですがな。建物も古いし…近く建て直す計画はあるそうですがね…。まぁどうぞ、どうぞこちらへ…」
 そこには四十歳は過ぎた中年の恰幅の良い男がいた。男は鬼頭を笑顔で迎えてくれた。
 「紹介しょう、この方が有名な警視庁特命捜査官の鬼頭警部さんです」
 男は鬼頭に握手を求めてきた。笑顔の絶えない人だ。
 「噂は聞いております。私は…」
 言いかけた時、生総課長が「ベーヤンですよ」と紹介した。
 「保安課の別所でございます。今回はようおいで下さいました」
 「百発百中の方ですか?私のほうこそ伝説の方にお会いできて光栄です」
 二人は意気投合した。
 「鬼頭さん、宿は近くにとってありますからね。食事はまだですよね。おい、ベーヤン行こうか?」
 別所が怪訝そうに課長に言った。
 「課長、鬼頭さんに明日の件の説明はしないのですか?」
 「うん。個室を取ってあるので食事をしながらでも良いですよね」
 生総課長は鬼頭に気遣い、話しのできる個室での食事を用意していた。
 「ありがとうございます」
 三人はタクシーを拾い「北新地まで」と告げた。
 「鬼頭さんは大阪は詳しいですか?」
 別所が訪ねてきた。
 「数えるぐらいです。出身地が仙台なので縁がなくて…」
 「ほな、新地はええですよ。打ち合わせがなければ課長、残念やが…」
 北新地まで十分もかからなかった。桜橋の交差点で降りた三人はビル十一階にある小料理屋で、見晴らしの良い個室に案内された。
 ビールで乾杯したあと、課長が明日の説明を始めるため一枚の紙を鬼頭に渡した。
 「傍受の令状は十日間なのでずか、今回は持っている令状の関係もあって三日間に絞ってあります。前回は携帯電話でしたが、今回は篠原組の固定電話です。住吉区の番号は06ー66××。立会人は中央区の消防署員に依頼してあります。時間は、午前十時から十二時間にしたいと思います」
 別所が続けて言った。
 「あした朝、私がむかいに来ます。九時ごろ来ますので食事を済ませておいて下さい」
 課長が全体的な大阪府警の篠原組に対する捜査の方針と、これまで府警が実施してきた捜査の経緯などを説明した。
 篠原組に対して府警は、刑事部と生安部の合同で対処することとし、狙いはヤミ金関係から入る貸金法と出資法、それに恐喝容疑などで既にトップの後藤田と役員、出納責任者など十三人の逮捕状を用意しようとしたという。生総課長が苦渋に満ちた顔になった。
 「ところがです。米川本部長からストップがかかったのです」
 鬼頭は、警察庁の方針と言うよりは米川本部長と瀬上の二人の方針だなと思った。
 「警察庁と本部長がどうしても首を縦に振らなかったのです」
 鬼頭が言った。
 「あの二人は、そうでしょうね。想像がつきますよ」
 そして別所が口を開いた。
 「薬物関係なのですが、西成区に篠原組の店がありまして、ここの店員で二十七歳の小僧が薬のまとめ役をやっています」
 さらに続けた。
 「買った人物で謳いそうな奴を確保して叩いたらこれが大当たりで、全部吐きましてね。いつでも小僧の柄を引ける状況にあります。問題はこれだけで組織の令状を取るまでには行っていないものですから…」
 覚せい剤購入者を逮捕し、その供述から売人が特定されて逮捕したとしても売人、つまり小僧が勤める店の捜索令状はとれるが、篠原組という組織の捜索令状は降りにくい。篠原組の組織に伸ばすには、それだけの確証が必要だった。
 別所は府警の薬物捜査の神様であり、その力量には鬼頭の意見など、はさめるはずもなかった。 
 「別所さんに対して我々は何も意見を言う必要はないでしょう」
 鬼頭は生総課長の顔を見て同意を求めるように言った。別所がさらに続けた。
 「ですから、予定している通信傍受で別に薬の話しが出ればそれはそれで良いとして、とりあえずは薬関係では西成の小僧の引きネタを拡大する予定で、捜査を進めているところです…」
 「それでよいのではないでしょうか。今回実施する通信傍受の狙いはあくまでも工作船に絡む薬物捜査ですよね。前回、記録に残せた一度目の通信内容の『ブツを掠めている』『北はだめだ』『液体に溶かして』と、二度目の通信では『取引全体』『(水死体で発見された薬物取引の疑いのある)金山』という文言が入っていたことがあり不完全だったものの一応は記録が残せた。そして再度の令状が降りたわけですから…」
 生総課長もその通りだと思った。鬼頭はさらに続けた。
 「しかし課長さん。前回のあの程度の内容でよく記録に残せましたよね。感心しますよ。ここだけの話しですが…」
 課長と別所が互いに俺が答えようと譲り合いながらも、結局は別所が言い出した。
 「大変だったのですよ。立会人と裁判官の運に恵まれたとしか言えないですね」
 三人は食事を済ませたあと鬼頭をホテルまで案内してくれた。
 
 翌朝、別所とともに通信傍受の予定されている施設に着いたときには、既に機器類が設置され、府警からの生総課長ほか通信技術者など五人と電話局責任者ら職員、それに立会人の総勢十人近くが開始時間を待っていた。
 「遅くなりました」
 鬼頭の挨拶のあとお互いに簡単な自己紹介があり、別所と鬼頭に対する役割の指示が課長から出された。
 「ベーヤンは時計係りだ。ストップウォッチ担当。鬼頭さんは聞いていて重要な部分のメモ係りを私と二人でやりましょう」
 令状の開始時間である午前十時が秒読みに入った。
 「はいっ、十時です。開始します」
 課長が宣言したが電話は一向に鳴らなかった。正午前、呼び出し音がした。ストップウォッチが押されるのと同時に、テープレコーダーのスイッチが入った。会話が始まった。
 「もしもし…」
 女性の声だ。事務員だろうと思われた。
 「住之江ですが、担当さんいますか?」
 若い男の声だった。住之江とは名前なのか?固唾をのんだ。
 「あいよ、どうしたっ>」
 「住之江の古田ですぅ。入金した報告の電話ですがね…」
 話し方に特徴のある男だ。「です」の「す」が語尾上がりになっている。住之江は住所で古田が名前だったのだ。事務連絡のように思われた。次のようなやりとりが続いた。
 「分かった。今度は全額やな…」
 「いや、まだありますぅ…」
 「ボケッ=、次は全額だと言うたのは何処のどなたはんだったかな…えっ。コラッ…」
 「申し訳ありません。勘弁して下さい」
 電話は四、五分で切れた。
 「はいっ、関係ないですね。録音は削除ですね」
 立会人が言った。
 こうして金融関係の報告と見られる電話が夕方までダラダラ続いた。結局第一日目は録音記録はなかった。別所が言い出した。
 「課長、この電話ね、事務連絡用の電話ではないのかな。後藤田は一度も出なかったなぁ。それとも居ないのかな…」
 重苦しい雰囲気に包まれた。
 「しょうがない。明日もがんばりましょう」
 課長の明るい声だけがみんなを元気付けた。
 心配された後藤田が電話に出たのは二日目の午後八時十六分だった。テープレコーダーのスイッチを押すと同時に会話が始まった。
 「後藤田です」
 「穴守です。しばらくですね…元気やったかね…」
 仙台の穴守からだった。鬼頭にも聞き覚えのある声だった。会場に緊張が走った。狙っていた電話だった。
 「なんですか?こんな時間に…」
 「新聞見ているかなぁと思って電話したんださ」
 「なんでどす?」
 「この前な、例の金山の事件が報道されたあとだが、週刊誌が北上のこと書きやがったんだよ。平壌に居るってな…」
 「えーっ。それで…知らんかったよ…」
 「そこまでは良いんだが…どうもサツがな、関東連合に絞った捜査をしているようなんだよ」
 「どっちですかね。殺しのほうかそれともヤク関係かね…」
 「どっちもだよ。新聞にはそう書いてあったよ。殺された金山は薬物に関係か?ってな。ヤバクなったと思わないか?。どうすれば良いかな…作ちゃんに相談しようと思っていたんだよ…」
 「それはヤバイですなぁ。アナやんな、タイミングを見てさ、玉を送る手もあるで…。この世界でよう使うんだが…ようするに犯人を決めてさ『おめぇ臭いメシ食ってこい』てな。北上に伸びれば困るのはアンさんもワイも同じでっせ」
 「それでさ、ちょっと会えないかな…。どうだろう。熱海当たりでは…」
 「ようざんすよ。いつにしますか?」
 「ちょっと待って…」
 しばらく時間がたった。数分後に
 「もしもし、来月の二日はいかがだろうか…」
 「七月二日でっか…ええですよ。ところでさ…ヤク、頼みますよ。値上がりして困ってまんがね…」
 しばらく間があって穴守が答えた。
 「今度入るのは…」
 穴守は、さらに時間をおいた。
 「実は…新潟に置いてあったのだが…新聞に出ていないので大丈夫だろうと思うのだが…ガサかけられたのだよ」
 「えっ、あれか?佐渡通信とかいう…なんぼあったんや…」
 「一・五㌔あるはずなんだよ…」
 「しかし、みんな捕まりはった?。どないして…」
 こうして話しが佳境に入ろうとしたその時
「はいっ、時間です。スイッチオフまで五、四、三、二、一、はいっ切って下さい」
 スポット傍受というやつである。
 「ったくもう。大事なのはこれからだろうが…」
 別所が大声を上げた。一定の時間が経過して、再びスイッチを入れた時には会話は終了していた。課長が言った。
 「何処に荷物が入るかまで聞けたら最高だったが、しょうがないよ。新潟の件は予期せぬ出来事や。これで良しとしよう。穴守はもう架けてこないと思うが、あと一日あるわけだから…乞うご期待ですね」
 この日はこれで終了した。三日目も期待されたが、録音として記録するような内容はなかった。これで通信傍受は全て終了した。鬼頭が言った。
 「来月の二日でしたっけ。熱海行きは…」
 「そう。Nシステムで確認をとらないとね。せっかくの証拠を裏付けるためにも…」
 課長が鬼頭に確認するように言った。
 「その場の受け渡しはないと思いますが…」
 「それにしても…」と鬼頭。そして続けた。
 「通話の中では、新潟に覚せい剤があるはずだと言っていましたよね…」
 別所も課長も「そう」と認め
 「どうしたんですか?押収していないのですか?」
 と聞き返した。
 鬼頭は、潰れていた小屋が気になった。
 課長は当然と思っていた。こうして鬼頭は大阪での三日間の出張を終えて分室に帰ってきた。待ち受けていたのは風間の報告だった。
 「鬼頭さん、いかがでしたか?大阪は御堂筋の夜は…雨の御堂筋♪…なんてね。最高でしたでしょう。カラオケ行ったの?」
 「行きましたよ。声が枯れちゃってね…ほら…ばぁーっ…」
 話しは現実に戻された。
 「通信の傍受は成功しました。穴守の話しでは、どうも新潟に覚せい剤があるらしいのですが…その前にスポット傍受で切られました」
 さらに鬼頭は続けた。
 「後藤田と穴守の会話の中で仙台の水死体の金山剛の話が出ました。捜査の手が伸びたことから穴守が後藤田に相談していること。それから、多分ですが薬が手に入らないので値上がりしていることなどもです。金山の件に関しては北上の名前を気にしていましたのですが…これを解明できれば薬物関係に期待できるのですが…」
 鬼頭の話しを聞きたくて佐藤、榊原、伊藤光太郎、それに小宮山まで集まってきた。鬼頭にとって全員が揃ったようで懐かしささえ感じた。風間が理事官席横のソファーに全員を座らせた。佐藤が座りながら話し出した。
 「立派な証拠として使えますよね今回の傍受は…。あの水死体は薬が絡んでいることになっていたでしょう?十分ですよね理事官」
 「十分、十分ですよ。よくやった。それでさ…」
 新潟県警のガサで発見されなかった覚せい剤の話しが鬼頭の心の中に残っていた。話すタイミングがなかった。
 風間理事官の顔が真剣な表情に変わった。
 「向こうの政治関係団体から警視総監宛に抗議文が届いたんだよ。勿論、上は気にすることはないと言っているが…。内容は北朝鮮の工作船の捜査は終わっているのに、何で警察が動いているのかというんだ。おかしいと思わないか?」
 鬼頭が続けた。
 「なんで警察がその関係の捜査をしていると知ったのですかね」
 「と、言うことは、相手も相当、情報収集をしているということだ。それはそれで良いでしょう。しかし、新潟で発見されなかったということは別の組織があるのか?いずれにせよ、もう隠滅されたかも知れませんね」
 と榊原。その会話を打ち切るかのように女性職員が受話器を渡してきた。
 「理事官=電話が入っています」
 電話は警察庁の重森からだった。
 「重森です。鬼頭さん帰った?。通信傍受は成功したんだってね。新潟も喋り出したというではないですか。府警から連絡があって篠原組の覚せい剤密売容疑での着手は、令状が取れるネタが揃うなど順調に進んでいるそうですね」
 重森の声が弾んでいた。風間が聞き返した。
 「組本体に対するガサ令状ですか?」
 「そう言っていた。篠原の経営する店が取引の場になっていると言うんだ。五カ所ぐらいあるらしい。あそこはベーヤンがいるからな…」
 電話の途中で、風間は鬼頭にそのことを報告した。鬼頭は親指を立てた。
 さらに重森はハイテンションになって言った。
 「それが終わってからさ、仙台の殺し関係、聞いたよね穴守との会話を。その関係で打ち合わせをしようかと思っているのですが…」
 重森はさらに続けた。
 「どうもね、見ているとボスというかテッペンは穴守になるのではないかと、ふと思ったのですが…思い過ごしかなぁ」
 風間が続けた。
 「私もそう思うんですよ。捜査二課がやっているキカワダの口座ですが、あのキカワダという女はどうも、穴守の女房だそうなんですよ」
 「打ち合わせまでに捜査二課は間に合うかなぁ」
 重森も風間も事件が大詰めにきていると感じていた。
 「まもなくだと今朝の途中報告で出ていましたよ」
 と風間が報告した。その風間に、鬼頭が新潟県警の件を打ち明けた。風間の顔がひきつった。重森は「新潟も謳ったようだし…」と言っていたのに…。
 「捜索漏れかね…」
 鬼頭が交換台に、新潟県警の阿部生安部長のデスク席の電話番号を告げた。
 「はい、阿部です。あ、鬼頭さん。どうも先日は…」
 明るい声だった。鬼頭は大阪府警の通信傍受で出た後藤田と穴守の会話内容をストレートに伝えることが出来ずに悩んだ。そして
 「阿部課長、心配なのですが…覚せい剤の見逃しはなかったでしょうね?」
 「いゃ、実はそれでね。鬼頭さんが大阪府警に行かれていたので報告が遅くなりましたが、鬼頭さんから指示があった羹の乗用車のカーナビの行跡を巻き戻したのですよ。そうしたら、軽井沢の別荘地に、真っ黒くなるぐらいの行跡があったので、現在、その現場に行っている最中なんです」
 この報告を聞いた鬼頭は、いくらか安心したが、土砂で埋まったとして捜索を放置したところが気になったので問いただした。
「軽井沢は令状を持っているのですか?。それに、気になっているのですが…この前の令状があるやつで佐渡島の土砂で潰れた小屋ね。あれ、掘れないかね…」
 阿部はびっくりした声で応答した。
 「軽井沢は令状を持って行きました。土砂に埋まった小屋ですか?。偶然の一致ですが、今朝、平井さんから提案がありました…」
 「それで?」と鬼頭が聞き返した。
 「そうですね。令状の時間はまだ残っているので掘ってみましょう」
 阿部は、あっさり引き受けてくれた。

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