「恐怖支配」突き崩した88人の証言 執念の説得、原点に苦い記憶(25日)共同
「なんだこの裁判は。全然公正やない。あんた生涯、このこと後悔するよ」
特定危険指定暴力団工藤会の総裁野村悟被告(74)は、死刑判決を言い渡した足立勉裁判長を真っすぐ見据え、はっきりとした口調で言い放った。会長の田上不美夫被告(65)も「ひどいな、あんた。足立さん」。裁判長が「退廷してください」と命じても野村被告は不満を口にし続けた。
野村被告は24日午前10時前、黒のスーツ姿で福岡地裁101号法廷に入った。補聴器を調整しながら「(音量を)上げとかないかんですね」とつぶやいた。
休憩を挟み約6時間にわたって判決が読み上げられる間、野村被告はしきりに傍聴席に目をやり、ハンカチで手を拭うなど落ち着かない様子。「巨額の利権獲得をもくろんだ」「執拗(しつよう)かつ強固な金銭欲」。裁判長の言葉に、何度も首をかしげた。
午後4時半すぎ、福岡拘置所(福岡市)に野村被告らを乗せたとみられる護送車が戻ると、待機していたスーツ姿の組員風の男たち約10人が車に向かって深々と頭を下げた。
◆ ◆
工藤会捜査を担当した福岡県警の捜査員や検察官には苦い記憶がある。
「オラァ!」「見たか」
2013年11月15日、福岡地裁小倉支部。建設会社社長を銃撃したとして殺人未遂罪などに問われた工藤会系組幹部2人に無罪判決が言い渡されると、傍聴席の組員たちは一斉に雄たけびを上げた。捜査員らは、うつむきながら法廷を後にした。
10年ごろから多発した市民襲撃で、県警がようやく立件にこぎつけた事件だった。組幹部宅のごみ袋から銃弾の薬きょうを押収し、捜査は尽くしたはずだった。だが、検察側の証人として出廷予定だった被害者は直前になって取りやめた。裁判長は「合理的な疑いが残る」と判断した。
ある捜査員はノートに「悔しい」と書き殴った。文字は涙でにじんだ。無罪判決後、北九州市では歯科医師の男性が刺されるなど市民襲撃事件がさらに続いた。
14年9月、県警は工藤会壊滅作戦に着手し、野村被告らを逮捕した。陣頭指揮した県警幹部は「トップが無罪となれば、市民が再び矢面に立たされる。中途半端な捜査は許されない」と自身に言い聞かせ続けた。
検察が目指したのは、トップの指示を絶対とする工藤会の内情や野村被告らの関与が推認できる事実の立証。そのためには多くの証言が必要だった。
◆ ◆
「確実に有罪にするため、裁判に出てほしい」
ある男性は数年前、検察官から野村被告に関する証言を頼まれた。「そんなことをしたら外を歩けなくなる」。何度も拒否したが、検察官は一歩も引かなかった。「県警で代々申し送りしてずっと保護する」と説得され、協力を決めた。
検察官は壊滅作戦着手と同時に被害者や組関係者と接触を重ねた。「野村被告の前に立ちたくない」という人には、公判廷とは別室から音声と映像を届ける「ビデオリンク」を使うよう提案した。県警は約100人態勢の保護対策室を中心に身辺警護を徹底した。
公判には検察側だけで延べ88人の証人が出廷した。
射殺された元漁協組合長の長男は法廷で、田上被告らからたびたび利権要求を受けていたと証言し、「警察への不信感があったが、野村被告が逮捕されて本気だと思い、全て話そうと思った」と明かした。
元組員も「トップの方々への証言だから怖い。(自分の)家族に何かあるんじゃないかと思ったが、被害者のことを考えた」と、組織の内情を詳細に証言した。
県警幹部は「どれも欠かせない重要な証言。一人一人の勇気が工藤会の恐怖支配を突き崩した」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。組員の一人は声を潜めて語った。「総裁も、会長も、もう戻ってこられないかも。組織へのダメージは大きすぎる」
◆ ◆
工藤会に対する異例の捜査と公判を検証し、工藤会の内情や地域の現状を報告する。
続きを見る
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/790255/
休憩を挟み約6時間にわたって判決が読み上げられる間、野村被告はしきりに傍聴席に目をやり、ハンカチで手を拭うなど落ち着かない様子。「巨額の利権獲得をもくろんだ」「執拗(しつよう)かつ強固な金銭欲」。裁判長の言葉に、何度も首をかしげた。
午後4時半すぎ、福岡拘置所(福岡市)に野村被告らを乗せたとみられる護送車が戻ると、待機していたスーツ姿の組員風の男たち約10人が車に向かって深々と頭を下げた。
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工藤会捜査を担当した福岡県警の捜査員や検察官には苦い記憶がある。
「オラァ!」「見たか」
2013年11月15日、福岡地裁小倉支部。建設会社社長を銃撃したとして殺人未遂罪などに問われた工藤会系組幹部2人に無罪判決が言い渡されると、傍聴席の組員たちは一斉に雄たけびを上げた。捜査員らは、うつむきながら法廷を後にした。
10年ごろから多発した市民襲撃で、県警がようやく立件にこぎつけた事件だった。組幹部宅のごみ袋から銃弾の薬きょうを押収し、捜査は尽くしたはずだった。だが、検察側の証人として出廷予定だった被害者は直前になって取りやめた。裁判長は「合理的な疑いが残る」と判断した。
ある捜査員はノートに「悔しい」と書き殴った。文字は涙でにじんだ。無罪判決後、北九州市では歯科医師の男性が刺されるなど市民襲撃事件がさらに続いた。
14年9月、県警は工藤会壊滅作戦に着手し、野村被告らを逮捕した。陣頭指揮した県警幹部は「トップが無罪となれば、市民が再び矢面に立たされる。中途半端な捜査は許されない」と自身に言い聞かせ続けた。
検察が目指したのは、トップの指示を絶対とする工藤会の内情や野村被告らの関与が推認できる事実の立証。そのためには多くの証言が必要だった。
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「確実に有罪にするため、裁判に出てほしい」
ある男性は数年前、検察官から野村被告に関する証言を頼まれた。「そんなことをしたら外を歩けなくなる」。何度も拒否したが、検察官は一歩も引かなかった。「県警で代々申し送りしてずっと保護する」と説得され、協力を決めた。
検察官は壊滅作戦着手と同時に被害者や組関係者と接触を重ねた。「野村被告の前に立ちたくない」という人には、公判廷とは別室から音声と映像を届ける「ビデオリンク」を使うよう提案した。県警は約100人態勢の保護対策室を中心に身辺警護を徹底した。
公判には検察側だけで延べ88人の証人が出廷した。
射殺された元漁協組合長の長男は法廷で、田上被告らからたびたび利権要求を受けていたと証言し、「警察への不信感があったが、野村被告が逮捕されて本気だと思い、全て話そうと思った」と明かした。
元組員も「トップの方々への証言だから怖い。(自分の)家族に何かあるんじゃないかと思ったが、被害者のことを考えた」と、組織の内情を詳細に証言した。
県警幹部は「どれも欠かせない重要な証言。一人一人の勇気が工藤会の恐怖支配を突き崩した」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。組員の一人は声を潜めて語った。「総裁も、会長も、もう戻ってこられないかも。組織へのダメージは大きすぎる」
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工藤会に対する異例の捜査と公判を検証し、工藤会の内情や地域の現状を報告する。
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