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2020年8月 9日 (日)

問われた政治との「距離」 検察は真の中立を目指せ(9日)日経

ずいぶん昔の話。取材で何度もやり取りをしていた検事の声が、怒気を含み震えていた。そんな姿を見たのは後にも先にもこの一度きり。政界への波及も指摘された事件の捜査が想定より早く終結した、その直後のことだった。
夜を日に継ぐ捜査の厳しさや、全容解明にかける思いはよく分かっていた。安易な受け答えがためらわれ、「トカゲのしっぽ切りになりますね」という言葉を飲み込んだ覚えがある。
内閣の下の行政機関であると同時に、政権の刑事責任をも追及する準司法機関――。検察はその存在の特殊性ゆえ、「政治」とは互いに距離を保ってきた。
検察首脳の任命権は内閣にある。だが検察の人事について時々の政権は検察側の意向を尊重し、事実上追認してきた。その代わり検察官は誰に限らず、定年を迎えれば職を辞す。そうやって両者は、つかず離れずやって来た。
だから今年1月以降の政治の攻勢には驚いた。政府が法解釈を変更し、「政権に近い」とされた黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年を突然、延長。さらに、内閣が認めた検察幹部は定年を延ばせるようにする検察庁法の改正案を国会に出し、審議を進めた。
ひょっとして政権の側は、過去の検察との緊張関係や先人たちの知恵を知らないのではないか。そう疑ってしまうほどの唐突、安直な振る舞いに映った。
黒川氏は賭けマージャンの発覚で辞職し、批判を浴びた改正案も廃案となった。7月には検察の当初からの意向通り林真琴氏が検事総長に就任し、約半年にわたって続いた政治と検察をめぐる騒動を、検察は乗り切ったようにみえる。
だが問題となった改正案は、まず政府が黒川氏の定年延長をごり押しし、それを後付けで制度化する形であったことから、批判がより強まった面がある。
政治の側が周到に準備し、最初から「検察の人事や権限行使に懸念がある。民主的コントロールをきかせるべきだ」という理由を掲げて法改正を持ち出していたら、議論は違った展開をたどったかもしれない。
検察もまた、多くの課題を抱えていることは間違いない。黒川氏の定年延長を受け入れ、検察庁法の改正作業を担ったのも法務・検察自身である。
ストーリーありきの強引な取り調べや、説明責任の枠外にいるような対応など、捜査をめぐる批判も根強い。今回は政治の側の「敵失」にすぎなかった。国民が納得できる独立・中立に向けた改革が急がれるが、急きょ設置された法務・検察行政刷新会議も、出だしを見る限り心もとない。

検察は事件を通して、政官財の不正に切り込んできた。時にはルール変更とも思える姿勢で臨み、捜査対象に規範や統治、自浄能力を問うてもきた。同じ刃はいま、検察自身にも向けられている。(坂口祐一)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62398170W0A800C2SHB000/

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