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2012年1月15日 (日)

「スパイに違いない」…北の不審船騒動で揺れた隠岐島(15日)

【衝撃事件の核心】

 日本海の離島、隠岐島を襲った北朝鮮の不審船“騒動”。「脱北」ではないとして、国は9日、漂流船の乗員3人を帰国させ、一件落着となったが、島民の間では「北朝鮮のスパイ」との疑念は消えていない。権力移行期にある北朝鮮の海上警備は手薄とされ、日本への脱北者が増加するとの見方も浮上。日本側の警備の課題も改めて浮き彫りになる中、島民たちは不安を募らせている。(花房壮)

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記事本文の続き ■漁船に「なぜ漁具ない?」

 松江市の北約70キロに位置する隠岐島全島が不安に包まれた。

 「漂流した漁民を装っているが、本当は日本にひそかに上陸しようとした北朝鮮のスパイに違いない」

 6日午前、島の約1キロ沖合で見つかった木造船について、地元の男性タクシー運転手は興奮した様子でこう話した。

 第8管区海上保安本部(京都府舞鶴市)によると、木造船には成人男性3人と1遺体が見つかり、乗員の1人は「漁の途中にエンジンが故障し、漂流した」と脱北を否定した。実際にエンジンも故障していたという。

 北朝鮮への帰国を希望した3人について、日本と北朝鮮は非公式協議で帰国手続きを取ることで合意。発見から4日目の移送というスピード決着となった。

 日本の領海内で北朝鮮の遭難者を保護した初のケースとなったが、島の港に曳航(えいこう)されてきた木造船を間近で見た島民からは疑問の声が次々と上がった。

 船体の長さは約7メートルで、中には空の油タンクや故障したGPS(衛星利用測位システム)ぐらい。「漁の途中で漂流したのに、なぜ漁具がないのか。魚をとる道具は漂流した際、生き延びるために欠かせないはずだが…」。男性会社員(48)はそう言って首をかしげる。

 40年以上の漁師経験がある男性は「あんな小さな船で遠くには行かない。特に海がしける冬場はむやみに漁に出ないものだ。何か漁以外の目的があったはず」と指摘する。

 別の男性漁師はやや驚いた様子でこう口にした。

 「冬の日本海をよく生きて漂流したものだ。根性はすごい。そうとう訓練されているに違いない」

 ■「韓国密航」が目的?

 取材に答えた島民たちはいずれも、北朝鮮の乗員の“説明”をうのみにしていないが、専門家からも異論が相次いだ。

 木造船について「漁の船ではないだろう」と話すのは、海洋事情に詳しい東海大学の山田吉彦教授。漁具が積まれていない上、小さな船に4人の乗員は多すぎると指摘する。

 ただ、日本に向かうには距離が長すぎるため、脱北目的の可能性は低いとしつつ、「本当は何らかの理由で韓国を目指していたが、エンジンの故障で漂流し日本に来たのではないか」と推測する。

 一方、公安関係者は低体温症で死亡したとみられる遺体に注目する。「漁師であれば通常、防寒具を持っているので低体温症で死ぬのはおかしい」。また、「船体がやや浮きすぎている」と指摘。「海上で何らかの荷物を取引した後かもしれない」と密輸船の可能性も疑う。

 

 

■課題浮かぶ警備体制

 木造船の“渡航目的”の不可解さ以上に、島民たちを不安にさせているのが、警備体制の弱さだ。

 「仮に北朝鮮からの遭難者だったとしても、なぜ、領海警備をかいくぐって海岸から約1キロの場所まで来ることができたのか。発見が遅れていれば、乗員たちは上陸していたかもしれない」

 地元で飲食店を経営する男性(63)は日本の領海警備に不安を隠さない。

 金正日総書記の死亡に伴い、金正(ジョン)恩(ウン)氏の新体制になったことを受け、海保は脱北船の漂着などを想定し、日本海沿岸部のパトロールを強化していた。

 ただ、今回のような小型木造船の発見には限界があるという。波間に隠れたり、木材が電波を吸収したりして、巡視船のレーダーでは捕捉できないからだ。

 レーダー性能を強化すれば解決する問題でもないようだ。

 「国内にある何万隻の小型船の影がレーダーに映るだけで、それを国内船かどうか区別することはできない」と山田教授は話す。今回のような木造船を洋上で捕捉、国別に識別することはほぼ不可能という。

 不審船の捕捉力を向上させるカギの一つは、国内外の船を見慣れている地元漁協との連携強化にある。

 実際に昨年9月の石川県の能登半島沖で脱北船を発見したのは漁船だった。

 陸上からの監視も重要だ。今回も地元住民の通報がなければ上陸されていた可能性もあった。

 隠岐の島町は木造船が発見された1月6日午後3時半すぎ、地元警察などの要請で「不審船や、見慣れない人を見かけたら、海保と警察に連絡してください」と防災無線を放送、警戒するよう呼びかけている。

 山田教授は「体制移行期にある北朝鮮の領海警備は通常よりも手薄とされ、脱北者が日本に相次ぐ可能性も高まっている。海上だけでなく陸上からも不審船の有無を従来以上に監視すべきだ」と指摘した。

 鳥取市の白兎海岸では昨年12月30日に漂着した男性の遺体が、北朝鮮の軍服とみられる衣服を着用していたことも判明している。

 今回、木造船が漂着した隠岐島だけでなく、国境を越えて漂着する不審船などへの監視強化が今後、日本海側全域で求められている。

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