現役保安官による内部情報の漏(ろう)洩(えい)という異例事態に加え、監督責任が問われる保安官の上司など他の処分対象を見極めるため、本庁主導で慎重に手続きを進める必要があると判断したとみられる。
保安官は11月10日に流出を認めた後に年次休暇を取得。その後、巡視艇「うらなみ」から陸上勤務に配置換えとなり、現在は職場復帰している。海保関係者によると、保安官は内部調査に対して、映像をインターネット上に流出させたこと自体については「悪いことをしたつもりはない」と話している。
「自分から非を認めたことになる」として辞表なども提出していない。しかし、周囲には「組織には迷惑をかけた。免職にしてほしい」などと漏らすこともあり、ロッカーの整理などを始めているという。
▼同情できぬ
当初はネット上などで非公開の映像を世に出したことに称賛の声が寄せられたが、海上警察権という強制力を持つ機関の一員が犯した内規違反については識者などから「違反を許していては規律が保てなくなる」と厳しい意見があるのも事実。
ある海保職員は「彼が海保に残れば、世間からは『やっぱり身内に甘い』とみられる。たとえ免職になっても同情はできない」と話す。
国家公務員が内部情報を漏洩させて懲戒免職になったケースは、平成17年、防衛省情報本部所属の1等空佐が中国の潜水艦の動向に関する防衛秘密を新聞記者に伝え、20年に自衛隊法違反(防衛秘密漏洩)容疑で書類送検された事件がある。1等空佐は免職後、不起訴(起訴猶予)処分となった。
▼長官更迭も
今回保安官がネット上に流出させた映像は、海上保安大学校(広島県呉市)の共有フォルダで一時期、多くの職員が入手可能な状態になっていたことに加え、衆参予算委員会の理事らに限定公開されるなどしており、秘密性の高い内部情報だったかどうかは疑問符がつく。
加えて、もし保安官が懲戒免職となれば、海保トップの鈴木久泰長官の更迭や、海保を所管する馬淵澄夫国土交通相の辞任といった議論が勢いを増すことは確実。こうした点から、保安官の処分についての最終判断は、官邸の意向が強く影響するとみられる。
映像流出という「荒波」に翻弄される海保の漂流は、しばらく続きそうだ。