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2010年4月10日 (土)

改造マイカー「偽装タクシー」が見破られたきっかけは…(10日)

 夜の街を走るタクシーは、実は自家用車だった。自分の車をタクシーのように改造して道路を走行したとして、大阪市西淀川区の無職の男(53)が道路運送車両法違反とタクシー業務適正化特別措置法違反容疑で大阪府警に逮捕、略式起訴された。男は元タクシー運転手という経歴を悪用し、偽造ナンバープレートやあんどん、料金メーターを自ら取り付けた自家用車で夜な夜な大阪市内を流し、客を乗せていたとされる。家族には、タクシー会社を退職したことを内証にしており、調べに対し「収入を得るためにやった」と供述。毎日“営業”後には、自宅近くの駐車場で装備一式を取り外す周到さで、家族も全く気づかなかったというのだが…。(吉田智香)

 

■信号無視で発覚 大阪市北区中津の国道176号で今年2月中旬、交通取り締まり中の警察官が赤信号を無視したタクシーを発見、停止を求めた。

 タクシーには、営業に使用することを示す緑ナンバーが付いていたが、警察官は「ナンバーに凸凹がない」ことに気づいて不審に思い、ナンバーを照会。該当する緑ナンバーはなく、大阪府警大淀署で事情を聴いたところ、運転していた男がナンバーの偽造を認めたため、事件が発覚した。偽造ナンバーはパソコンでデザインした自作で、緑地に白い文字を印刷し、透明のプラスチック板に挟んで、車の前後に付けていた。屋根やドアにはタクシーと思わせる表示もあり、個人タクシーを装って走行したとして、男は翌日逮捕された。

 昨夏、男は健康上の理由で勤務先の大阪市内のワンコインタクシー会社を退職。約3カ月間にわたって主に夜間、ひそかに大阪市内で客を乗せて金を稼いでいた。タクシー運転手や客に偽造ナンバーを見破られるのを警戒し、人目につきやすい繁華街などで客待ちはせず、もっぱら流しで客を乗せていたという。

 事件が発覚した際、車内に客は乗っていなかったが、男が無許可で客を送迎する「白タク行為」を認めたため、大淀署は当初、道路運送法違反容疑での立件を目指した。しかし、「流し営業が中心で、客や受け取った運賃、走行距離などを特定できなかった。金の計算もどんぶり勘定だった」(捜査関係者)ため、裏付けを取ることは困難を極め、同容疑での立件は断念されたという。

 ■どこから見ても“タクシー”  「車体がクリーム色であることを除けば、どこから見ても、夜ならタクシーにしか見えない。手が込んでいた」と捜査関係者をうならせた偽装タクシー。ベースとなったのは、男が所有していたトヨタ自動車の高級車クラウンだった。屋根に設置したあんどんは、業者から購入。ワンコインタクシーをまねて、「2キロ500円」「5000円超過分5割引」の文字が入っていたという。驚くことに、車内には、「空車」や「賃走」を表示する機器だけでなく、インターネットオークションで購入した本物の料金メーターまで取り付けてあった。

 さらに、ドアには、「(個人)K TAXI」などと書いたマグネット板をはり、個人タクシーを装っていた。しかし、ドアの開閉は手動だったという。男は毎日、自宅近くの駐車場で、これら一式を約30分かけて車に取り付け、午後10時ごろから大阪市内を走行。明け方までには仕事を終えて駐車場に戻り、一式すべてを取り外した後、何食わぬ顔で帰宅していた。

 客は料金メーターに基づいて運賃を支払っていたため、料金トラブルになることがなかったとみられ、利用客から警察などへの通報や相談はなかったという。

 また、家族には、生活費として月15万円を渡していた。このため、妻は「てっきりタクシー会社に勤めているものと思っていた」として、夫の行動に疑問を抱くことはなかったという。

 捜査関係者によると、男は「数え切れないほど職を転々としている」といい、ワンコインタクシー会社と別の会社も含めると、タクシー運転手歴は「通算7~8年」に上った。しかし、個人タクシー事業者の許可を申請するには、運転経歴などの要件を満たしていなかったという。

 偽装タクシーに手を染めた理由について、捜査関係者は「タクシー運転手の経験があり、手っ取り早くできたからだろう」と推測する。タクシー会社では交代勤務だが、偽装タクシーは時間の融通が利き、好きな時に“営業”することも可能だったようだ。

 ■防ぐことは困難  国土交通省近畿運輸局は「白タク行為が違法であることは言うまでもないが、今回の件は、外観から利用者にタクシーと誤解させ、輸送の安全を脅かす悪質な行為」と厳しく非難する一方、「そこまで本物に似せた白タクは聞いたことがない」と首をひねる。

 低料金を売りにする白タクは、客と交渉して運賃を決めることが多いとされるが、担当者は「料金メーターを設置することでわずらわしい交渉を避け、正規の運賃に近い額を受け取っていた可能性もある」と指摘する。だが、料金メーターなどをオークションサイトで出品することは違法ではなく、悪用されることを防ぐ術は今のところはないという。

 平成14年の改正道路運送法で、タクシーの増車や新規参入が原則自由化され、大阪府内では緩和前よりも台数が増加。近畿運輸局によると、府内のタクシーは21年9月には約2万3千台にのぼり、供給過剰気味になっているという。

 こうした現状に、大阪府内のタクシー会社約7割が加盟する社団法人大阪タクシー協会は「お客さんの数はほぼ決まっているため、奪い合いが厳しくなった。これ以上、台数が増えると、共倒れになりかねない」と危機感をあらわにする。

 大淀署の調べに、男は「仕事を辞めて収入がなくなり、生活費を得るためにやった。タクシーのような外観なら、ばれにくいと思った」と供述したとされる。不景気の影響もあり、飲みに行っても電車で帰る人が増えたと言われる昨今。厳しい経営環境に直面するタクシー業界にとっても、男の行為は許せないだろう。

 大阪市内のあるタクシー運転手は、憤りを隠さない。「今回のような違法行為で客を奪われると、まじめに働くわれわれにしわ寄せがくるだけだ」

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