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2009年8月21日 (金)

連載小説警視庁薬物特命捜査官(最終回)

   さよなら鬼頭捜査官

080713_164028_m  墓参りをしている鬼頭に声をかけたのは毎朝新聞の詠子だった。
  「最初に鬼頭さんを見たのが、隅田川で青森の金田さんの死体が発見された時でした。次が仙台の水死体の身元が分かった時、仙台市警察署前でした。我が社は、もともと北朝鮮の工作船事件から徹底取材の方針が社命でしたので、警察庁担当からの指示で、それとなく事件そのものをマークしていたのです」

 「続けて良いですか」 と詠子は鬼頭に確認してから、さらに続けた。
 「そうしたら最初は関係ないと見ていた隅田川の殺人が、はい乗り事件に繋がり、鬼頭さんという刑事さんは、麻薬の特命捜査官であることを知りました。それで、徹底マークの指令が社会部長から出され、担当は私だったのです」

 詠子が必死になって説明する顔を見ていると、なぜか鬼頭は憎めなかった。
 「なんで、僕が『徹底マーク』なんですか?」
 「それはですね、北朝鮮の覚せい剤の取材を重視していたから、専門官の鬼頭特命捜査官をマークするのは当然だと言われたからなんです」
 「あのね、特命捜査官は、知られた段階で特命にならないのですよ」
 詠子は「知りませんでした」と謝り、さらに続けた。

 「その取材の過程で実は〝垂れ込み〟があり、中東貿易協力会会長の穴守の深い取材が要求された訳だったのです。穴守は鬼頭特命捜査官が調べており、事件の主役と分かったのです」
 鬼頭が聞いた。
 「なぜ、貿易協力会会長の深い取材が必要だったのか?それに、垂れ込みってなんだね」
 「垂れ込みというのは、新聞社は色々な方面にアンテナを張っていて、読者に限らず業界関係者など方々から『警察はこんなことを調べているらしい』という情報が寄せられるのです。社会部だったり、政治部だったり、あるいは極端なことを言うと外信部だったりするのです。それらの情報を『垂れ込み』と言っています。業界用語なんです。なぜ会長かと言うと…」

 詠子は続けた。
 「それで、今回、穴守が逮捕されましたね。肩書きが中東貿易協力会会長だった。それで逮捕の発表を聞いた社会部長が、『これは大変な事件なんだ。政界関係者に飛び火するかも知れない』ということになり、一課担当の私に側面からの取材をするよう指示したのです」
 「穴守の人間関係取材を進めるには、どうしても生い立ちを調べなければならないのです。それで、この村にも来るようになり、政界関係者など昔のことが分かる関係者を当たっていたのです。これはあくまでも今後の穴守関連取材のためだったのですよ。誤解しないで下さい」
 鬼頭は驚いて聞き直した。

 「そうすると君は、既にこの村というかこの場所には何回も来ているのか?」
 「はい。これで三回目です。前回来た時に、ひょっとしたことから『穴守は幕田と言ってたしか兄弟がいたはずだ』となったのです。その兄弟の幕田長一郎を追っていたら、政界関係者ではなく刑事さんだった訳です。運良く小学校の同級生に会うことができて、警視庁にいるらしいということが分かったのです」

 鬼頭が聞いた。
 「同級生とは何という人物だ?いや、ごめん、何という人だった?」
 「高橋文蔵という人です」
 鬼頭は驚いた。「あの文ちゃんだ」と。
 「それで人事で調べた結果、私たちの追っているというか注目していた鬼頭特命捜査官に突き当たったわけです。その確認のため生安部長に当てたもので『書きますよ』とは言っていませんでした」
 詠子は申し訳ないような表情になっていた。

 

 「そしたら、昨日『辞表を書いて出て行った。書き方次第では覚悟しておけ=』という電話が社会部長宛に警視庁生安部長から入り、私とキャップは部長に怒られたというのが顛末です。私たちは永久に書くつもりはありません」
 二人はタクシーに乗った。今度は鬼頭が話す番だった。

 「今、書かれると裁判に影響が出かねないのですよ。常識的に見て、警察官が親兄弟を調べることは本来、事件捜査、特に被疑者調べではあり得ないことなんです。私が本当の弟ではないかとなんとなく感じたのは最初だった。確証が持てずに進んで行き、立件したあと、真実を確認したくなって東京拘置所で会って初めて思い出してもらった。拘置所に行けば全てが分かりますよ」
 詠子が言った。

 「拘置所で私は鬼頭刑事さんを見ていました。ですから、私たちはスキャンダル的に書けば何時でも書けたのです。それをしたくなかったことは分かって下さい。今頃は社会部長が永堀生安部長に会って、鬼頭刑事の話しをしていると思いますよ」
 「なんでですか?」
 「このように取材した真意を伝えているはずです」

 二人の沈黙の時間が続いた。タクシーが角田市のJR駅に到着した。仙台行きの最終電車がホームに入っていた。詠子はこの電車に乗ることになっていた。鬼頭は、詠子とはここで別れると言った。鬼頭は詠子に出来るだけ真実を伝えたかった。

 「詠子さん、私は警察官なのです。刑事なのです。警察官は勧善懲悪でなければならないと同時に、人間でなければなりません」
 詠子は鬼頭の顔を凝視していた。
 「穴守の私の供述調書をプロが見れば分かるはずです。『なんという冷酷な調書だろう』と。あの調書を克明に読むと微塵の同情心もなく、情状酌量の余地などは全くありません。これでもか…これでもか…と、相手を犯人に追い込んで行く様子が、行間から読み取れるはずです。だから…私が辞表を出したのです」
 鬼頭がさらに続けた。
 「私は…穴守の出所を待つつもりです…」
 鬼頭がここまで言った時、発車時間を知らせるベルが鳴った。鬼頭は詠子に最敬礼した。詠子の目に光るものがあった。詠子は無言でホームを走った。 おわり

 長い間のご愛読ありがとうございました。時間をいただきまして、次回は事件報道カメラマンを連載する予定です。ご期待ください。

 

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