連載小説警視庁薬物特命捜査官(63回)
弟との別れ
「そして、被疑者がですよ。最後に鬼頭に向かってこう言ったそうです。『刑事さん、恐れ入りました。いつもこんな理詰めの調べをするんですか?全部認めます』とね。とにかく、ある時は静かに、そしてある時は大声で攻める。冗談も飛び出したり、ここだと思った瞬間、機関銃のごとく、ズバッ、ズバッと証拠を羅列するそうです。その主任は『まるでベートーベンの運命という音楽を聴いているようだった』と表現していました。そして、『理詰めの調べ』と言うよりは、諺に例えて『理詰めより重詰め』の調べだと言うんです。改めて凄い人なんだと思いました」
風間のこの話しを聞きながら、重森は鬼頭の手を握りしめた。微かに握りかえしたような気がした。
鬼頭の夢は続いていた。
「きみさんが言うんだったら…それで、いいだべさ…」
堂々巡りでこの話しは何時までも結論が出ないと思った、たすくさんが切り出した。疲れた長一郎は居眠りを始めていた。
「この子だったら…大人になっても記憶にのごるだろうが…敬ちゃんだったら…まだ…わがんねぇんだがらさ…ざんこくだげども…しょうがねぇんでないの?」
母ちゃん方の叔母さんが言った。
「しょうがねぇんださ、な、これは…」
そして、敬二郎は父方の叔母さんにおんぶされて、たすくさんの家を出ようとしていた。長一郎が目を覚ました。
「なんで…行くの…おれもいぐから…敬だけつれていかないで…。母ちゃん…おらぁ…ゃだぁー」
長一郎が泣き叫んだ。お爺ちゃんが「早く行くように」と目配せした。敬二郎をおんぶした叔母さんが出て行った。これが、幕田家としての母子三人家族の別れだった。
「敬二郎、けいじろうーっ、敬ちゅぁーん…」
「貴方っ=アナタッ=どうなさったの=」
うなされながら苦しそうにもがいている鬼頭を見て、絵美が鬼頭の体を揺すった。
「貴方、お願い、目を覚ましてちょうだい=」
「重森さんも風間さんも…みんな来て下さっているのよ=アナタッ=」
鬼頭の額には汗が噴き出ていた。絵美はナースコールを押した。
「どうなさいました」
看護師さんが駆けつけてくれた。
「主人がうなされてばかりで、ちっとも目を覚まさないのです…」
看護師は、手で頬をタタキながら、耳元で大声を出した。
「鬼頭さん、鬼頭さん」
何十秒かあと、鬼頭が目を開けた。
「アナターッ」
絵美がベッドにすがって泣き出した。


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