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2009年5月29日

2009年5月29日 (金)

★連載小説警視庁特命捜査官(56)

  広瀬川のアウディの謎

080713_164028_m_3   穴守の調べは、素っ気ない会話から始まった。
 ーー今日は8日ですね。七夕様ですか?。仙台の七夕は8月でしたね。お飾りは作ったことありますか?
 穴守は、何も答えなかった。
 ーー私は仙台に住んでいたことあるのですよ。ところで、木川田さんですか?奥さんの。戸籍では穴守鈴子さんとなっていますね。なんで四葉銀行の名義人に木川田姓を使っているのですか?。
 穴守は、黙った。
 ーー話しずらいのでしたら、こちらから言いましょうか?
 「……」
 一言も口を開こうとしない。鬼頭は穴守の顔を見続けた。20分はしただろうか、鬼頭の補助が咳払いをした。
 ーー言いたくなければ言わなくても結構ですよ。我々が組み立てますから…間違ったら言ってくださいね。組み立てると言っても証拠に基づいてですからね。間違ったまま話しを進めるとね、後で、貴方自身がつじつまが合わなくなって困るんですよ。こちらとしては理路整然と話しているつもりですからね。
 「……」
 それでも完黙が続いた。両手を机の上に乗せて、しきりにすり合わせている。「これ以上は放置できない」と鬼頭は続けた。

 ーーさらに言うとね。こちらの調べは、ガラス細工のように組み立ててあるんですよ。
 「……」
 「ガラス細工」と聞いた瞬間、穴守の手の動きが止まった。
 ーーでは、次に進みますね。黙秘なら結構ですよ。我々の方に記録は残りますからね。判断材料にはなるんですよ。

 その瞬間、穴守が口を開いた。
 「あのさ、朝から、何をベラベラ一人でまくし立てているんだね」
 ドスの効いた声が狭い調べ室に響き渡った。
 ーー貴方が、答えないので時間がなくなると困るので…ね。だったら答えて下さいよ。無理にとは言いませんから…。貴方の会社には経理部とか営業部とか部は幾つあるのですか…。
 「部かよ。確か…五つだよ」
 穴守は、ようやく話しに乗ってきた。
 ーーその中で経理部の格は? いやいや格と言っても、核爆弾の核ではなくて、格上とか格下とかいうあれですよ。社長室より力はあるんですか?
 「んな訳はねぇだろうよ。うちは社長とは言わんがなぁ」
 ーーでは、何と呼ばれているんですか?中東貿易協力会の会長さんですか?
 「あれは商売でないからさ。親父さんて呼ばせているんだよ」
 穴守は両手を後頭部で交差させて椅子に寄りかかるような姿勢をとった。
 ーーほう、中東貿易協力会は商売には関係がないと言うんですか?
 「金儲けどころか金を食う虫だよ。世話役だけなんだよ」
 穴守が調べ室の時計を見た。鬼頭も一緒に見たら正午の十分前だった。
 ーーもう昼ですね。午前中の部はこの辺で終わりにしましょう。
 鬼頭は、穴守の朝の表情が硬かったので午前中は攻撃に出るのを見合わせた。中東貿易協力会なる実体の把握にジャブを入れた程度で半日は終わった。

 午後は、一つだけ攻めたかった件があった。金山剛の件だった。攻めに入ると鬼頭の顔色が変わる。
 ーー東京の古物商の金山さんの件だがね。アウディに乗っているの知っていますよね?
 「なんなんだよ、この前からアウディ、アウディってよ。何を聞きたいのか?」
 ーー良く覚えていましたね。たった一度しか言っていないのを…
 「俺はよ記憶がいいんでな。なんでおかしなことを言うんだと記憶していたのよ。なんなんだよアウディはよ」
 ーーそんなに気になるのですか?
 「言ってみろよ。答えてやるからさ…」

 この態度に、鬼頭は怒りを感じた。穴守の目を見ながら鬼頭は黙った。10分は経過しただろう。鬼頭は前回の調べで声を荒げる時があったが、今回は、あくまでも丁寧な会話に徹した。
 ーーじゃあ聞きますね。しっかり答えて下さいね。
 鬼頭はわざと時間をかけた。穴守の表情を見るためだった。
 「早く言えよ、早く…」
 ーー……
 今度は鬼頭が黙った。

 

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