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2009年3月 6日 (金)

連載小説警視庁薬物特命捜査官(44)

    警察官人生41年分の涙

080713_164028_m 鬼頭は久しぶりに帰った自宅だった。妻の絵美は好物の浦霞に魚の金目鯛の煮つけを用意して待っていた。きょうは長女の幸子も早く帰宅していた。家族揃っての夕食は何か月ぶりだろうか。
 テーブルに座った鬼頭に一通の郵便物が渡された。杉山からの挨拶状だった。
 「杉山さんからのお手紙ですが転勤なさったのかしら…」
 「しまった。彼は定年のはずだ…」
 封を切ったら、ありきたりの挨拶状に加えて一通の手紙が入っていた。
 
 鬼頭君、お世話になりました。この五月三十一日で無事、定年を迎えることが出来ました。四十一年間の警察官の仕事でした。お陰様で家族共々、なにひとつ欠けることなく人生を謳歌できたのは、皆様方のお陰と感謝しております。定年、最後の日、君に電話でもしようと思ったのですが、忙しいのにお邪魔してはと思い、ダイヤルを回せませんでした三十一日の深夜、六月一日の朝の午前零時に、多摩川警察署四丁目駐在所の建物に一人で敬礼しました。たった一人の終了式でした。その時、君の顔が浮かびました。そうしたら、色々な思い出が走馬燈のように頭を駆けめぐり…「あぁー、治安一筋の人生だった…」と思うと四十一年分の涙が流れました…
 
 鬼頭が目頭を押さえた。
 「どうしたの?」
 と絵美が言った。鬼頭は言葉での表現を失った。黙って手紙を渡した。絵美がしばらくして話し出した。声が潤んでいた。
 「あなたも、間もなくこのような時期を迎えるのですね…」
 「迷惑ばかりかけてしまった。〝警察馬鹿〟だったかも知れないが、でも…俺にとっては満足した人生だった。定年の日に離婚なんてないように頼みたいものだがね…」
 鬼頭の言葉に幸子が言った。
 「お父さん、その話はまだ早いでしょう。『十秒後に何があるか分からない世界だ』と言って来たのはお父さんでしょう」
 そして絵美がさらに続けた。
 「ホント。『十秒後に何があるか分からない』『俺を当てにするな』と言われ続けてうん十年か…」
 「でも、お母さんも結構、楽しんでいたんじゃないの」
 「そりぁ私だって警察官だったもの…幸子はどうだったの?」
 「警察官って頼られる時は良いのよ。でも、どっかで誰かが悪いことすると、全部が全部『警察官のくせに…』と言われるのが辛かったな…」
 鬼頭が口を挟んだ。
 「だから君は警察官になりたくなかったのか?」
 「そうよ。でもさ、良く、警察官一家ってあるじゃない。兄弟はもとより父親もお爺ちゃんも警察官だったっていう、あれ。凄いよね。うちは、お父さんが格好良くなかったもの…。何も教えてくれないしさ…帰ってこないしさ…」
 「お前はそんなこと言ってもな、言えば心配するだろうし…実際はテレビドラマのようにはいかないものなんだよ…」
 鬼頭は自分の娘に「格好良くない父親」と思われていたんだと分かると、なぜか、悲しかった。
 こんな会話が続き、鬼頭は久しぶりに深酔いした。
 

昨夜は久しぶりの家庭を味わった。鬼頭は気分爽快の朝を迎え通常の時間に家を出た。朝の電車内は比較的空いていた。
 「杉山が四十一年分の涙を流したという。俺には涙を流す機会があるのだろうか?…」
 こんな思いをしながら新橋分室に着いた。風間が待っていた。
 「鬼頭君、きょう捜査二課の例の口座。いよいよやれるらしいからさ…。わが方が引き取れる分もあるので…十時からだから…打ち合わせな。榊原君も一緒に行けるな?」
 うなづきながら榊原が言った。
 「理事官ね、仙台の穴守、あれやりたいですね」
 それを思うと鬼頭のアドレナリンは最高潮に達する。
 「そうだろう。当然だよ。やってもらいますよ」
 風間は、既に警察庁の重森との打ち合わせは済んでいた。「身柄を警視庁で取り、鬼頭が穴守を調べ、大阪府警の別所が後藤田を調べる」の構図だ。この布陣に重森は「痺(しび)れる」とまで言った。
 会議が始まった。捜査二課長の石本からの報告だった。
 「キカワダ名義の口座ですが、キカワダは「木川田鈴子」と書きますが、これは仙台市青葉区中央四丁目××、新城ビル四階にある新城商会の代表取締役、穴守敬二郎の妻だったことが分かりました。ですから鈴子はあくまでも単なる名義人で実質は新城商会、つまり穴守が管理する口座です」
 石本はさらに続けた。
 「ズバリ言いますと地下銀行でした。入金の大部分は木川田名義のキャッシュカードで引出し、外国為替取引銀行・東京大東銀行新橋支店に持ち込み、香港の同銀行支店に送金していました。受取人は中国人。香港で物産会社・海南商事を経営者している梁伯一です。中国公安部に捜査依頼して調査した結果、福建省に地下銀行が存在し、そこから中国の犯罪組織と一部は平壌の地下組織に流れておりました」
 「続けてよろしいでしょうか?」
 石本は了解を得たあとさらに続けた。つづく

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