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2009年1月 2日 (金)

★小説 警視庁薬物特命捜査官(35)

  口座の凍結
080713_164028_m  明らかになった羹の人定は以下のようなものだった。
 名前は北朝鮮金策出身の羹相進(五十七歳)。富山港に入港する貨物船で昭和四十八年に密入国した。
 当時は兵庫県内のある商工関係者に北朝鮮籍の会員がおり、その人物の紹介などで大阪市西成区の釜が先で生活していたが、韓国籍の人が多く不審を抱く人物が出てきたことから東京の山谷地区を紹介されて移り住んだ。
 初めの頃は、中国に住む脱北者の親族が委託する富山港寄港の貨物船の船員から仕送り金を受け取り、細々と生活を続けていた。やがてはその送金もなくなり、「人殺し以外は何でもする」ことを条件に、偶然、知り合った「ロックの雅」の元で働くようになった。
 その時の仕事について羹は「街の中で物を売る商売」とだけしか供述しない。
 しばらくすると兵庫の商工会の李さんという人に呼ばれ、函館や富山に入港する北朝鮮籍の貨物船に「依頼物」を渡す役目を任されるようになったという。
 渡している物は、大きさがその都度変わるので中身については知らされていなかった。年に数回の仕事だったが、一回の仕事で交通費別で五万円前後になり、山谷で生活するには不自由はしなかったという。
 昭和五十年の十二月ごろだった。突然、ロックの雅から呼び出され、日本人になりすますための戸籍が手に入るので「五十万円で買わないか」と持ちかけられて、十回払いで買うことになった。
 渡されたのが「金本悟」さん名義の日本で言う「戸籍謄本という物」で「手続きの仕方が分からない」と言うと、雅は、長野県だったかどこかの温泉旅行と三万円の謝礼金つきで届けを手伝ってくれたという。
 「自分は金本さんという人は全然、見たことも無かった」と供述している。ロックの雅とも長野県の温泉地で別れた後は、残金を口座に振り込み続け、連絡は電話で済ませていたという。
 「自分は北朝鮮で工作員の教育を受けていた脱北者でもあり、無線技師の資格を持っていることから、在日韓国籍の仲間に呼びかけて起業を決めた」
 これが五日間の調べで供述した内容だ。一通りの調べを終えた荒垣警部が、鬼頭に相談した。鬼頭は立ち合っていたので、自分の思うままの意見を述べた。
 「どうも完全に落ちていないようですね。しかし今となっては裏のとれる話しではないような気がしますね…」
 荒垣もそう思っていた。そして鬼頭はさらに続けた。
 「裏付けを取るにしても兵庫について調べた結果、当時、明石市に総連関係者がいたということまでは分かりましたが、既に済州島に帰国していると言うのです」
 荒垣は続けて言った。
 「その相手の名前が不完全で、追求すると『忘れた』としか言わない。分かっていても李だけで、これではどうしようもありませんね」
 鬼頭も頭を抱えていた。そして
 「荒垣さんね、はい乗り関係はロックの雅こと北上を捕まえてみないと分からないのですよ。ですからその関係の捜査は警視庁も可能な限りやっているのだから…覚せい剤取引関係のヒントでもいいからね。何とか聞き出したてもらえませんか」
 と鬼頭は荒垣に提案した。そして
 「北上については現在ICPOに赤手配している最中でもあり、それを待つしかないでしょう。待ちましょうよ」
 一呼吸入れて、さらに続けた。
 「そしてね荒垣さん、心配することはありませんよ。今は落ちていませんが、これからあがってくる資金の流れなどと合わせれば落とすネタは必ず見つかりますよ」
 荒垣は頷いた。その夜は、久しぶりで夜の新潟市内に出ることにした。鬼頭も荒垣もネオンが恋しくなっていた。捜査一課の平井も誘われた。
 調べが六日目に入ろうとした翌日、捜査二課で分析していた帳簿類について会議が開かれることになった。荒垣警部はそのまま羹の調べを続行するが、鬼頭は会議に呼ばれた。
 

  佐渡通信の経理部門を担当していた捜査二課の課長応接室で寺島課長が待っていた。鬼頭をはじめ笹原外事課長、柴田保安課長などが一緒だった。
 資料が配られていた。
  佐渡通信社押収資料 
 1 出納帳 十七冊(平成五年以降)
 2 日本海銀行新潟支店普通口座76××××名義人 金田悟 十二通(平成八年以降)
 3 印鑑 金田、佐藤、小杉、杉本など名義の十四本
 4 自動車運転日報  八冊(平成八年以降)
 5 社員名簿 一冊
 6 無線機修理依頼月報 二十五冊(平成八年以降)
 7 社員行動表 二十二冊 (個人別各一冊で平成七年以降の記載あり)
 「皆さんの手元に配ったのが今回佐渡通信から押収した関係資料です。このうち2の銀行口座資料を見て下さい」
 寺島二課長の指示で「資料2」の銀行預金通帳コピーを見た。赤の蛍光ペンでマークがあった。
 「赤のマークのところですが先月が三十五万円、先々月が四十二万円、その前が二十八万円といずれも同じ口座に振り込まれています。ここに我々が注目しました」
 いずれも振込先は東京四葉銀行横浜支店普通678×××…となっていた。寺島はその部分の説明を始めた。
 「普通口座の678××…を捜査関係事項照会で調べた結果、名義人はキカワダスズコであることが分かりましたが、この口座については警視庁の多摩川警察署により先月末に凍結されていました」
 寺島がさらに続けた。
 「多摩川署の捜査本部なんですが鬼頭さん、覚せい剤か何かで捜査本部を組んでいるんですよね。署長の佐山さんに問い合わせたら教えてもらったのですが、鬼頭さんに宜しくと言っておりました」
 そして続けた。
「その結果なんですが、現在、キカワダスズコについて捜査している段階だそうですので詳細についてはもらえませんでした」
 鬼頭が手をあげて「ちょっと良いですか?」と言って説明を始めた。
 「多摩川の件なんですが、後ほど特命室と打ち合わせをしますが、あの本部は多摩川管内の倉庫に中国から覚せい剤が送られて来たのでコントロールドデリバリー捜査を進めていたものです」
 一呼吸おいて鬼頭はさらに続けた。
 「ところが捜査の途中で、荷受け人で新宿で焼き肉店を経営している中国人を淀橋西署が緊急逮捕してしまったという事件です。したがって、仮に銀行口座名義人で繋がりが出れば新潟県警と警視庁の多摩川、淀橋西署の各捜査本部と関係してくることになります」
 この鬼頭の説明に出席者は全員が驚いた。つづく

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