★日本列島 本日の振り込め詐欺 (21日)1件
【衝撃事件の核心】振り込め詐欺被害金“横取り”狙った裁判所書記官 その「ある嗜好」
全国の凍結口座に眠る50億円もの犯罪被害金を現職の裁判所書記官は狙ったのか。架空人物になりすまし、判決文まで偽造して振り込め詐欺の被害金を盗み取っていた京都家裁書記官、広田照彦容疑者(36)は容疑を認め、「1人でやった」と供述。北海道や東京、大阪などの裁判所にもニセ判決文を送りつけて犯行を繰り返していた疑いが出ている。被害者救済法とシステムを逆手にとった犯行は周到そのもので、書記官でなければできないものだったが、もうひとつ、容疑者のある“嗜好”も影響していたようなのだ…。
かいくぐられた凍結口座
発覚の端緒は、振り込め詐欺の被害者からの問い合わせだった。「凍結された口座にあるはずの、私のお金がない-」振り込め詐欺にだまされ、金を振り込んでしまった宮城県内の60代男性が、振込先の口座から被害金を取り戻そうとした際、口座に金がないことを不審に思い、その銀行に確認してきたのだ。振り込め詐欺の被害が確認された段階で、金融機関は振込先の口座を凍結し、金の出し入れができない状態にする。犯人側に金が渡らないようにするための措置だが、6月に「振り込め詐欺被害者救済法」が施行され、凍結口座から被害者に金がスムーズに返還できるような仕組みがつくられた。その流れはこうだ。 (1)振り込め詐欺に使われた口座は凍結され、その全体情報が預金保険機構に集約される。 (2)預保はホームページ(HP)で凍結口座の一覧を60日間公表する(公告)。法律上は、口座に金が振り込まれた時点で、その債権者は口座名義人となる。預保は60日間の公告の間に債権を主張する口座名義人が現れないかを確認する(振り込め詐欺犯が訴え出ることはまずない)。訴えがなければ口座名義人の債権は消滅。これによって被害者への返還が法的に可能となる。 (3)預保はHP上で口座名義人の債権が消滅したことを告げ、被害者に各金融機関に名乗り出るよう勧める。 (4)金融機関での被害確認が済めば、返還される。問題の宮城の60代男性はこうした手続きにのって返還を求めていたが、その銀行から「口座からは既に金が引き出され、残高はない」と告げられ、その理由をこう説明されたというのだ。「この口座の名義人に対し貸金があるという人物の訴えが裁判で認められ、口座を差し押さえてその人物に引き出させるよう判決が出た。それに基づいてさいたま地裁熊谷支部から口座の差し押さえ命令が出された。その措置に従った」 裁判所の判決文の効力は重い。犯罪絡みに使われた口座の凍結までも解除させられるのだ。 わけのわからない男性は、銀行に命令を出したさいたま地裁熊谷支部に事情を話し、「本当ですか」と確認した。命令の根拠となった判決文は京都地裁が作成したものだった。熊谷支部は、京都地裁に確認する。まもなく京都地裁から回答がきた。 「そんな判決は存在しない」 裁判所で審理される訴訟は刑事であれ民事であれ、すべてに「事件番号」が付される。その銀行口座の凍結を解き、差し押さえさせた判決文の事件番号はまったくの架空だというのである。この時点で、何者かが判決文を偽造し、裁判所と銀行をだまし、凍結口座の金を横取りした“事件性”がはっきりした。10月9日、さいたま地裁熊谷支部は被疑者不詳のまま偽造有印公文書行使罪で埼玉県警に告発した。
現職書記官の「指紋」
捜査の結果、12月7日に逮捕されたのは、京都家裁書記官の広田容疑者だった。偽造判決文での勝訴者は「馬場(ばんば)」なる男。その「馬場」からはこの銀行に、問題の凍結口座にあった約400万円を自身のネット口座に振り込むよう依頼する振り込み依頼書が届いていた。この際の郵便配達記録の伝票から広田容疑者の指紋が検出されたのが突破口になった。もちろんこの段階ではその指紋が誰のものかはわからない。が、判決文が偽造されるという特殊な手口から、県警は裁判所関係者の犯行との見方を強め、捜査網を絞っていった。その結果、広田容疑者の指紋と判明した。
広田容疑者の逮捕容疑は「ニセの振り込み依頼書を使った」という偽造有印私文書行使。 あくまでも犯行の“一部”しかとらえていない容疑のため、この逮捕容疑が何を意味するのかがわかりにくい。しかし、簡単に言えば、裁判所の書記官が判決文をでっち上げ、振り込め詐欺の被害者を押しのけてその被害金を横取りしたわけで、「裁判所の人間が振り込め詐欺犯と結託しているのではないか」と強い衝撃を社会に与えた。その広田容疑者は京大卒業後、平成8年に京都家裁事務官として採用され、4年前に同家裁書記官に任官。逮捕時は家庭内の紛争を扱う家事書記官室に勤務していた。「とにかく仕事熱心でまじめ」 職場や自宅近所の住民からは、いずれも裁判所書記官という職業にふさわしい評判ばかりだった。しかし、警察の調べからは、広田容疑者が1年以上前から周到すぎるほど周到に犯行の準備をしていったことが浮かび上がり、再び取調官たちを驚かせるのだ。
1年以上も前に「なりすまし」
昨年9月。広田容疑者は「就籍」の許可が出たとする京都家裁の文書を偽造し、それを役所に持参して「馬場(ばんば)」という同年齢の架空の男になりすました。「就籍」とは、戸籍法に基づき、出生届が何らかの理由で役所に提出されなかった戸籍のない人を対象に、新たな戸籍を作成する手続きだ。家庭裁判所の審理を経て許可を受け、自治体に届け出ることで完了する。中国残留孤児などに許可された事例があり、過去には記憶喪失でも認められている。 広田容疑者は、「記憶喪失」を理由に、京都家裁で就籍の申し立てが許可された-とするニセの許可書類をでっちあげたのだ。その本籍地は京都府南丹(なんたん)市。許可書類には実在の裁判官の名前とともに、担当書記官として広田容疑者の名前も記載していた。許可書類を南丹市に提出し、手続きは完了した。「長年、知能犯捜査で免許証や保険証など身分証の偽造事件はいろいろやってきたが、『就籍届』の偽造なんて初めてだ」知能犯捜査の長い捜査員ですら、こう言って舌を巻く。違法な手続きで突如、社会に現れた「馬場」は、大阪府内の2カ所の住所地を転々とした後、8月に大阪府島本町のアパートに入居。ガスや水道、携帯電話を契約し、健康保険証も所持した。「実際に生活しているように装ったのだろう。もちろん、開設した銀行口座のカードの受け取り場所としても活用したはずだ」(捜査幹部)その「馬場」=広田容疑者は次に、預保のHPに目をつけるのだ。
10万件、50億円
前述の通り、振り込め詐欺の被害者に被害金返還が順調に進むよう、6月に振り込め詐欺被害者救済法が施行された。それに伴い、預保のHPには、詐欺に悪用された疑いの強い全国約10万件の凍結口座の一覧情報が随時掲載されている。金融機関名や地域などを画面に入力すれば、該当する口座名義と残金を誰でも閲覧できるのだ。凍結口座に残されている被害金の残高は実に約50億円。2年かけて被害者に返還するのが目標だ。埼玉県警は広田容疑者のパソコンも押収し、その使用履歴などを解析中だ。「まだ解析途中だが、残金の多い口座を物色したのは間違いないだろう」と捜査幹部はみている。「振り込め詐欺被害者救済法案は昨年5月ごろに骨格ができており、情報を入手していた可能性もある」とみる関係者もいる。こうして“標的”を定め、京都地裁で「馬場」が凍結口座の名義人に対し、貸金請求訴訟で“勝訴”したとするニセの判決文を作成。差し押さえ申立書とともに、標的の銀行を所管する地域の裁判所に送りつけ、凍結口座から「馬場」が預金を引き出せるよう、口座差し押さえを命令させたのである。京都からその銀行に「馬場」の振り込み依頼書が到着した数日後、広田容疑者に酷似した男が京都市内のATM(現金自動預払機)から数回にわたり、現金計400万円を引き出している姿を、監視カメラが記録していた。その広田容疑者は犯行後の11月、数百万円相当の新車を購入している。「就籍」をでっち上げ、判決文をでっち上げ、裁判所も銀行もだました広田容疑者。もちろんその動機は「カネ」なのだろうが、捜査の過程では、それだけでは割り切れない不可思議な一面も浮かんだのである。12月7日、京都市伏見区。埼玉県警捜査2課の捜査員は、この日逮捕した広田容疑者の自宅を捜索した。そのとき、部屋の中から奇妙な物を発見したのだ。警察官や消防隊員の制服など数点。「こいつ(広田容疑者)はいったい何者なんだ? 変装マニアなのか?」 裁判所書記官という堅い職業イメージの裏で、変装を“堪能”していたらしい広田容疑者の“別の顔”が浮かんだのだ。 違和感を覚えた捜査員は一応、上司にも制服の件を報告した。しかし、県警内部では「振り込め詐欺の被害金をだましとった事件の本筋とは関係ないだろう」(捜査員)という程度の認識だった。が、それだけのことと言っていいのだろうか。 「違う自分になりすましている、という点では共通性があると言える」捜査幹部の1人は、今回の事件の下地として、広田容疑者の“変装癖”を無視できないとの見方を示すのである。その広田容疑者は逮捕当初は「よく覚えていない」「記憶にない」と、まるで“記憶喪失男”を装ったように否認していたが、36回目の誕生日となる12月18日になってやっと、「1人でやった」と一連の犯行を認めたという。県警は当初、振り込め詐欺などの犯行グループが関与した可能性も視野に調べていたが、犯行発覚のリスクが高いとされるATMからの現金引き出し役も広田容疑者が認めたため、単独による犯行とほぼ断定した。「犯罪グループと書記官の共謀という最悪のシナリオはほぼ消えたが、事件の全容解明には時間がまだかかる」(捜査幹部) 県警は戸籍や判決書の偽造、現金の詐取などを一括して詐欺容疑で再逮捕する方針だ。余罪の疑いも濃厚だ。調べに対し広田容疑者は、ニセの判決書を札幌、函館、東京、大阪、宇都宮地裁支部などに郵送していたことをほのめかしているのだ。捜査関係者によると、凍結口座からはすでに計約1000万円が引き出された可能性もある、という。裁判所書記官であるからこそ可能だった広田容疑者の犯行。一方で、容疑者の個人的な“嗜好”も絡み合っているかのような感がある。犯行の全容と容疑者の心の内の解明には、まだ時間が必要だ。http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081219/crm0812191734018-n1.htm
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