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2008年10月 5日 (日)

☆【日曜日に書く】刑事の怒り、職業人の誇り 井口文彦(5日)

Banner_logo_051_9 警察取材が長かったせいか、刑事の言動を通じて世間の機微といったものを感じる癖がある。古い話で恐縮だが、少しお付き合いいただきたい。

 ◆応えず、顔をそむけた

 昭和50年6月の夜。警視庁本部にほど近い半蔵門会館(当時)に、土田国保(くにやす)警視総監(同)以下の警視庁幹部と捜査員が集まった。連続企業爆破事件の解決を祝う打ち上げの宴会である。49年から50年にかけ、東京・丸の内の三菱重工ビルや三井物産本社など11カ所が爆破され、多数の死傷者を出した連続企業爆破。極左過激派によるテロ、ゲリラ事件が頻発するこの時代でも、悪質さで群を抜く大事件であった。警視庁は公安部に加え、殺人を担当する刑事部捜査1課刑事も特捜本部に投入した。捜査の結果、犯行グループを割り出し、8人を逮捕、2人を指名手配。犯人を割り出した中核部隊は、特捜本部とは別に、一部の公安捜査員で構成された「別動隊」だったとされる。特捜本部に派遣されていた殺人刑事たちにとって犯人逮捕は寝耳に水であった。犯人が割り出されていたのはおろか、別動隊が動いていたことすら知らなかった。相手は極左過激派である。何食わぬ顔で市民生活を営み、警察の動きを観察している可能性がある。捜査の方向を悟られぬようにと、警視庁首脳部は捜査1課に「陽動隊」の役割を演じさせてマスコミの注意を引き付け、その間に公安エキスパートの別動隊を潜行させたのである。「敵をあざむくには味方から」を地でいったのだった。“ダシ”にされたと知り、捜査1課の刑事たちは怒りで震えた。特捜本部派遣組を束ねていた管理官(課長代理)は後に「大1課長」と呼ばれた実力者だったが、このとき彼は顔を紅潮させて震え、言葉を出せなかった。尋常でない様子に、上司が「気持ちは分かるが、お前が怒ったらだめだぞ」ととりなしたほどだった。その、打ち上げの席。「皆さん、ご苦労さまでした」。警視総監がテーブルを回り、捜査員にビールをついだ。総監から酌を受ければヒラの刑事は低頭するものだろう。公安の捜査員はそうだった。だが捜査1課の刑事はだれも総監のねぎらいに応えず、顔をそむけてビールを受けた。犯人割り出しに絡めなかった自身のふがいなさへの怒り。そして、陽動にされた殺人刑事たちの無言で精いっぱいの抗議だった。

 

◆強烈な意識は今も栄える

 以上は当時を知る捜査1課OBの間で“苦い経験談”として語られる話である。
 受け止め方はいろいろだろう。「大人げない」「刑事も組織の一員。使われ方が気に入らないといってその態度はない」と感じる人もいるかもしれない。けれども、筆者はいい話だと思う。50を過ぎた男がすねたような抗議を“社長”に示さずにいられない誇り高さ。「自分が犯人を見つけ出す」という思いゆえの悔しさ。それほどいちずな職業意識をうらやましく感じるのだ。汚染された米と知りながら売る食品会社があれば、リコール情報を握りつぶす自動車会社もあった。マーケットにうそを流して投資家から資金を集める会社もあった。どんな職業にもあるはずの「これだけは失ってはいけない」という一線がやすやすと破られるニュースに接するたび、顔をそむけながら警視総監のビールを受ける無名の刑事たちの姿が、「失われた職業意識」とは対照的な「強烈な職業意識」の象徴として、栄(は)えてくる。刑事を指す隠語「デカ」は、明治時代の刑事が着た角袖の倒語が語源といわれる。元は蔑称(べっしょう)だったというが、ジャーナリストの久保博司氏は著書で述べている。 「もしデカという言葉が蔑称だったとすれば、それを見事に“尊称”に変貌(へんぼう)させたのは刑事たちの功績だ。彼らには誇りがある。捜査費に自腹を切るのは損得勘定では理解できない。事件が迷宮入りすることに、耐えられないほどの口惜しさがあるからだろう。仕事に熱心であるほど刑事は、事件の解決しか頭にない。だから寝食を忘れて捜査を続けるのである。その姿勢が、蔑称を尊称に変えたといってよいであろう」(『日本の警察 警視庁VS.大阪府警』) 新聞記者も「ブン屋」と呼ばれたりする。それが蔑称か尊称なのかは判然としないが、少なくとも「デカ」という呼び名に負けないような職業意識を持っていたい-などと思うたび、顔をそむけてビールを受ける刑事たちの姿が浮かんでは、刺激になったりする。(いぐち ふみひこ=社会部次長)http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/184361/

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