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2008年9月19日 (金)

★小説 警視庁・薬物特命捜査官(20)   (9月19日)

  竜さんが出したトリック
 080713_164028_m 警視庁で「ロックの雅」の捜査を進めた結果、当時の浅草では在日朝鮮籍か韓国籍の人物と見られる情報が飛び交っていたことを突き止めている。現在の山谷地域は高齢化が進み、当時の労働者やホームレスも既に死亡しているため知る人は少なく捜査は難航した。
 金田の調べ室には新潟中署が充てられていたが、報道発表は控えられた。入り口を入ると中央に調べ官の竜さんと金田が向かい合って座り、竜さんの右に椅子を置いて鬼頭が座った。この日の竜さんの声は優しく聞こえた。
 --それで赤羽で何をしていたんだっけ?
 「不動産のセールスです」
 金田の緊張が解れた。
 --なんで辞めたんだよ。
 「女ができて…結婚を迫られたのですが…借金しているし…その女から逃げるために辞めました」
 --ほう、その女の名前は?
 「忘れましたよ」
 それまで竜さんを見つめていた金田の目が下を向いた。何かに堪えているようだ。
 --東京に山谷があり、大阪には釜ヶ崎というところがあるのを知っているか?
 「知っていますよ。労働者の町でしょう」
 --ほぅ、君はいつ山谷とか釜ヶ先を知ったのだ。
 竜さんは皮肉っぽく言った。そして
 --山谷にあるマンモス交番って知っているか?
 「マンモス?ですか?」
 --そうマンモス交番だよ。何年だっけ。交番が襲撃される暴動があったよな。山谷騒動の始まりと言われたあれだよ。
 「???」
 金田の表情が曇ったように見えた。
 --当時、あの地域には「ロック(六区)の雅」という男がいたんだよ。知っているかね?
 「………」
 --では、ロックという言葉を知っているか?
 「ロック?ですか?」
 --そうだ。浅草六区だ。
 「あー、浅草六区なら知っていますよ」
 --君は、あの地域に住んでいたのか?
 「………」
 --何故?黙っているんだ。その頃はいなかった?それとも知ってるんだな?
 「ですから…地名は知っていますよ」
 --そんなら、話しは元に戻るけどさ。君が生まれたところは青森県の五戸町(ごのへまち)だよな。隣の四戸町には妹夫婦が住んでいたんだっけ?
 「家を出たときは妹は結婚していませんが…私が東京に来てしばらくした時でしたから三十歳のころです。妹が結婚したと聞いたのは…」
 竜さんはイライラしたが、ここで焦っては金田の緊張は崩れる。敢えて冷静さが求められるときだ。悟りかけるように言った。
--だからさ、それが『四戸郡だったっけ』と聞いているんだよ。住んでいたところだよ?
 「四戸町でしょう?さっきは刑事さんは町と言いましたよ。四戸町にはいましたから…間違いありません」
--そうかそうか。四戸町か、そうか…。
 竜さんはしばらく黙っていた。鬼頭は「さすが老年の調べ官。この間が大事なのだ」と思っていた。
 被疑者は次にどんな質問がくるのかと心中は穏やかでないはずだ。「今、握手したらあいつは汗をかいているに違いない」
 鬼頭は握手したい衝動にかられた。しかし、押さえた。
 --ところで青森には八戸とか三戸とか五戸とか六戸とかはあるよな。へのつく所が…一から八までな。へが付く地名な。しかしさ、四戸という地名はあったっけ?三戸の次の五戸の町は確か三戸郡内に六戸町と八戸市と南部町に囲まれているのだが…
  「えっ」
 金田?は絶句した。顔が見る見る青くなっていくのが分かった。
 

--なぁ金田悟さんよ。それじぁー質問を変えるがな、金田家の家紋ってあるのかよ。知っているかね?
 「カモン?って何ですか…」
 --知らないの?水戸黄門が印籠を出すだろう、葵のご紋をよ。日本にはなぁ、その他にも剣横木瓜とか横木瓜、丸に横木瓜とか必ず「家紋」というのがあるんだよ。
 「ミトコウモン?ですか…そんなカモンは知りませんでした」
 金田の唇が震えだしている。それを見ていた鬼頭が続けた。強い口調だった。
 --君は金田さんと出会ったのは昭和何年だっけ?それになぁ、悟には妹がいないんだよ。孫が…
 金田は黙り込んでしまった。そして唇の震えは体の震えに変わった。鬼頭はたたみかけた。
 --金田悟さんと出会ったのはいつかと聞いているんだよ。
 「………」
 --じゃぁーお前は、悟ではないのか?えっ 名前は?
 「………」
 この後、金田は竜さんや鬼頭が何を聞いても黙秘を貫いた。竜さんは鬼頭のタイミングが少しばかり早かったのに後悔した。
 五日目は一言も話さなかった。しかし、落とすチャンスかも知れないが、竜さんは焦らなかった。だから手持ちの決定打となる羹の名前を切り出すのを控えた。DNA鑑定結果が出てから一気に落とすことにしたのだ。
 DNAとは遺伝子を言う。地球上に生存する生物は細胞の集まりであり、その細胞の中には遺伝子が存在する。
 遺伝子には様々な情報が詰められている。それが「生命の設計図」でもあり、特に親子関係を立証するには最高の手段として現在は、刑事事件だけでなく民事でも一般人が検査を依頼する大学など民間の分析機関が多い。
 鑑定結果が出たのは検査を開始してから六日目だった。時間がかかったのは水死体で発見された「羹」の鑑定が、細胞が死んで壊れていたため「ミトコンドリアDNA」鑑定が必要だったからだ。
 鑑定で金田と羹のミトコンドリアDNAが完全に一致した。この結果、二人は肉親関係であることが正式に証明されたのである。 
 「よしっ捜索令状だ。自宅マンションと佐渡通信社、それに倉庫も含めて関係カ所全てだ。帳簿類は徹底的に調べて国外への持ち出し品まで漏らすなよ」
 報告を受けた花田刑事部長の激が飛んだ。捜査二課も動員捜査員が倍増した。
 一方、新潟県警からの報告を受けた重森は警視庁の風間理事官を訪れていた。
「そうすると当然、自称・悟と金田正夫のDNA鑑定は一致しなかったわけで、羹の兄は日本人の金田悟に成りすましていた〝はい乗り事件〟に発展したわけですね」
 意外な事件の展開に風間は驚いた。その意外な展開とは?
 北朝鮮工作船事件ー覚せい剤密輸入事件-殺人事件-はい乗り事件が一本の線で繋がったのだが…風間が聞いた。
 「羹がなりすました悟さんの穴掘り(死体発掘作業)はやったのですか」
 「まだやっていない。そこまで落ちていないんだよ」
 重森はソファから身を乗り出して続けた。
  「どうして〝はい乗り〟したかの部分になるとダンマリを続けるらしい。別件逮捕だと言って弁護士を要求してきたんだよ」
 風間が驚いた声になった。
 「任同のときは道交法の速度違反でしたっけ?…」
 しかし、重森は落ち着いて答えた。
  「そう。だが結果的に公務執行妨害になった。なりすましは公正証書原本不実記載。それに道交法違反を加えて、どこまで引っ張れるか…相手はどこまで謳うかだな」
 暫く沈黙の後、今度は風間が口を開いた。
 「捜査指揮は誰がやったのですか?」
 鬼頭を出しているだけに気になっているところだ。そして心配な立件の部分に話しが及んだ。呟くような口調になった。
  「なにしろ例え殺していたとしても事件が古すぎるんですよね~。江戸川捜本では金田悟さんが、はい乗りされたのは、川口から長野に転出した昭和五十一年ごろと見ているんですよ。金田は外国への出入国記録はあるが、奴の場合は長期滞在ではなく短期の小旅行…時効は大丈夫だと思うが…」
 風間の呟きの間、重森は苦渋に満ちていた。そして続けた。
 「時効もそうだが…別件なんだよ…毎朝新聞に掲載されて国外逃亡を考えたのだろうと思うのだが…それを裏付けるのが午前十時二十分の成田発北京行きのJL781便の予約があったことなんだよ。成田まで行かせれば良かったのかなぁ」
 風間が口を挟んだ。
 「予約だけではねぇー結果論ですが、慌てることはなかったのではないかと思いますね」
 そして風間が続けた。
 「期待はガサですか。北との関係が出ればよいのですが…鬼頭君がいれば大丈夫でしょう」
 つづく

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