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2008年9月12日 (金)

★小説 警視庁・薬物特命捜査官(19)   (9月12日)

      仏の竜さん
080713_164028_m  「強引すぎるが…速度違反で逮捕は…う~ん」
 加藤は考え込んだ。イライラした笠原が言った。
 「道交法百十八条では最高六カ月と罰金なら十万円以下でずか…」
 加藤はこの言葉でふん切りがついた。
 「よし、呼び出しに応じなければ任意同行の時もあるよね。ましてや逃亡の疑いがあるならなおよろしい訳だ。自宅を出てタクシーで行き先を告げた段階で確保だな…国外なら最高だがな…」
 加藤の了解を得た笹原は外事課主任の携帯のダイヤルボタンを押した。
 「主任、どうした」
 「課長、まだ出てこないのですよ」
 加藤の了解もあり、笠原の腹は固まっていた。
 「出て来てタクシーに乗って行き先を告げた頃合いをみて任同(任意同行)をかけてくれないか。そのまま新潟中署に連行だ。警ら中のパトカーも向けるよ。文屋さんに知られないようにしないと。後々、面倒になると困るので頼みますよ」
 「主任さん、主任さん」
 笠原の言葉が終わった直後に巡査部長が叫んだ。部長の声に気づいた主任がマンションを見たとき、金田は大きな旅行バックにスーツケースをタクシーのトランクに載せている最中だった。
 「よし、行こう。タクシーだから逃げることはないと思うが、君が正面に立って運転手に警察手帳を見せる。俺が左のドアに向かう。手帳を見せたら直ぐ右のドアに向かえ。右のドアと言っても運転席の後部ドアだよ。いいなっ>」
 言われた通りに部長はタクシーの前に立ち、動きを制して右側に回ろうとした。その時、金田は運転席後ろのドアを手で開けて逃げようとした。金田の開けたドアが巡査部長と正面衝突、部長ははじき飛ばされた。
 金田は国道方向に走って逃げたが、倉庫の角を曲がったところで笹原の手配したパトカーと鉢合わせになり、追いかけてきた主任と乗務員に捕まった。巡査部長はドアと衝突した際、左の膝頭に裂傷を負った。逮捕容疑は公務執行妨害の現行犯だった。
 主任と笹原外事課長が鮫島警備部長室に呼ばれた。
 「結果的に取り押さえたから良いが判断が甘すぎないか?。報告書を出せ。みっともなくてしょうがない。連絡体制に不備はなかったのかを含めて詳細に書けよ」
 さらに続けた。
  

 「それから指揮を求めるのに、何で警察庁の若僧なんだ。君はどっちを向いて仕事をしているんだ」
 「部長、お言葉ですが、せめてスピード違反の件を教えて頂かないと…」
 鮫島の機嫌が良くない。もう定年まで数年を残す年だが、県警内では「キラキラ星」と呼ばれている。
 「キラキラ星」とは業界用語で、機動隊ー警ら隊ー機動隊ー警ら隊を繰り返して階級をあげてきたに過ぎず、捜査などの経験もなく幹部としては信頼の薄い存在なのである。
 部下を思いやる心などは持ち合わせていない。ましてや、情報の共有化などはないばかりか、それでいて自分に対しては全ての報告を求める。これでは、チームワークが求められる組織捜査には不的確な警察官なのである。
 「バカ野郎。交通違反で、しかも通達してから一週間もしないでなんで同行なんて出来るんだよ。お前は警察官だろう?職務質問してさ、例えばドライバーか何かを所持していた軽犯罪だってあるだろう。頭を使えよ頭=」

強引である。質問は罵声となって返ってきた。
 この日から金田の取り調べを担当したのが、「仏の竜さん」の威名をとる新潟県警捜査一課係長の平井竜一・警部だった。そして鬼頭が立ち合った。調べ官では鬼頭は警視庁でも三本の指のなかに入る。
 調べが始まって四日目、警視庁捜査一課から重要な情報が寄せられた。
 東京・北区赤羽で不動産会社に勤めていた金田悟は会社の金を使い込んで首になったという。しばらくは東京・三谷地区で日雇い労働者をしながらホームレス同然の生活をしていたが、そのホームレス仲間の「ロックの雅(マサ)」から呼び出しを受けたあと行方不明になった。昭和五十年十二月中旬だったという。
 三谷地区とは東京都台東区浅草の吉原大門の東側、清川周辺にある日雇い労働者の町として古くから知られている。特に境界線があるわけではないが清川、日本堤周辺の一帯を呼んでいた。
 同地区には、昭和三十年代の高度経済成長期には一万五千人を超える労働者が住んでいたと言われている。その労働者らが都内で猛烈に進められる建設工事や開発工事に〝日雇い〟として労働力を供給していた。
 一日働いて得た〝日銭〟で安い宿に泊まれるし、安い酒を飲んで食事もできる。体調が悪い時は仕事は休める。
 「誰に干渉されることなく自由に生きられる」
 こんな言葉がピッタリの街だった。
 中には家族を捨て、世を捨てて隠れるように生きる男もいた。とにかく〝自由人〟の集まりの街なのだ。自由は行動や感情の束縛を解く。一人のちょっとした体勢批判が暴徒化して、昭和三十五年八月には集団がマンモス交番を襲撃した。マスコミは「山谷騒動」とはやし立てた。
 昭和四十年には労働センターが設立され周辺に集まる日雇い労働者の斡旋業務が開始された。行政が介入すれば、「労働者支援」の名のもとに、役所という〝お上〟に対立する思想的集団が参集、煽動者が生まれる。
 「仕事がない」などの不満があろうものなら、鬱積(うっせき)したエネルギーが爆発・暴徒化する。その暴徒が四十七年の労働センター焼き討ち事件だ。
 警察官でさえ単独でこの地域に入るのを躊躇するほど荒んだ時代でもあり「指名手配班の隠れ場所」の隠語さえ生まれた。

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