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2008年8月22日 (金)

★小説 警視庁薬物特命捜査官(16) (22日)

        隅田川の水死体の身元が判明
 080713_164028_m 新潟県警の五階会議室で、緊急捜査会議が開かれた。工作船から押収された携帯電話の通話記録にあった「金田悟」に関する捜査途中報告である。
 金田に関しては、海保に捜査権があり資料が無かったものの警察庁が一部の資料を入手していたので早くから捜査を進めることができた。
 配布された住民表の写しによると金田は、昭和十八年に青森県三戸郡五戸町毛無森××番地で生まれ育った。五十一年九月に埼玉県川口市から長野県湯田中に引っ越したことになっている。
 新潟市末広町××番地の現在地には昭和五十二年に移転届けがあり、漁船など小型船舶の無線機の修理・販売店「佐渡通信」を経営している。
 笹原外事課長が説明に立った。笹原は警察庁の警備企画課員から出向している。同県警には警務部長など要職に警察庁派遣組が多い。
 「海保の情報と併せて金田を特定したのですが、その後どう調べても薬物との接点が見つかりませんでした。しかし、今回の工作船事件との関連を無理に位置づければ、船舶無線という職業からすればある程度は納得ができるのではないかという視点にたって、行動監視、銀行の金の流れ、取引先関連捜査を進めてきました」
 笹原は捜査が広範囲に及んだことを説明した。
 「そうした中で、金田は昨年の春から僅か一年余で三回も渡航していることが分かりました。いずれもマレーシアなど東南アジア地域と北京なんです」
 「行動について大使館にお願いして調べた結果、無線機器の修理技術の現地での指導が名目ですが、北朝鮮との接点は見つかりませんでした。但し一部に不可解な行動も見受けられましたが完全なる証拠把握までには至っていないのが現状です」
 ここで笠原は、机上に置いたA4の資料を手にしながら言った。
 「次に銀行関係と取引関係については竹内課長から説明してもらいます」
 生活保安課の竹内は地元の刑事上がりのベテランで県警内でも〝酒豪のタケヤン〟として親しまれ、県内には〝親分〟と慕う部下が多い。
 「船と言っても十五・九九㌧前後の漁船が中心になります。勿論、北朝鮮から不定期に新潟西港に入る万景号にも出入りしています。そんなこともあって従業員は無線技術者が十人。それに営業担当が五人と事務員を含めた総勢は二十一人です。取引銀行は日本海銀行新潟支店で、年間取引額は八千万円にのぼるようです」
 「八千万?」
 各部長は意外な少なさに顔を見合わせた。

 

鬼軍曹と威名をとる花田刑事部長が声を上げた。
 「それはそれで良いが周辺だけ調べてもしょうがないだろう。引きネタはどうなっているんだ? 先ほどの説明で不可解な行動とはなんだ」
 笹森が小声でひとりつぶやいた。
 「漁業無線の修理と言っても、果たしてそれだけだろうかと…。ガサ(家宅捜索)でもしてみないと…」
 答弁につまっている竹内に花田がさらに訪ねた。
 「海保の最終報告でもそうだが、今回の工作船オペレーションと携帯通話先の因果関係がとれない以上、本件からの攻めは出来ないと判断せざるを得ないな」
 「別件から入るしかないとも思ってるんですが…」と竹内。
 暫く間をおいて続けた。
 「それが…実は大きな壁にぶち当たりました。地域課に金田の足取りを調べてもらったのですが、どうも不明な点が多いのです」
 「家族はいないのか?結婚歴は?」と花田。
 そして竹内は
 「金田について青森県警に手配した結果、五戸町内には該当者はいませんでした。どうも駐在さんの話しでは、昭和の二十年代までは樺太などからの引き揚げ者が一時滞在して地域があったので、その方たちではないかと言うんです」
 「戸籍など役場にはないのか?」
 と花田が聞いた。
 竹内が答えた。
 「昭和の時代ですから当時の戸籍も含めて現存していませんでした。ただ…」
 「ただ、なんだ…」。花田のイライラが全員に伝わった。
 「公文書ではありませんが、駐在さんが古い地図のような物を発見しました。毛無森の郷土研究家が持っていたらしいのですが、当時、八戸にあった尋常小学校の地図ではないかと言われた印刷物に、引き揚げ者の地域の記入が五戸川周辺にあったそうです」
 「分かった」と花田。そして言った。
 「昭和五十一年の長野県までの三十数年はどこでどうしていたんだ。地域課だけでなくてさ、動員が可能な捜査員は全部出動して調べたらどうなんだ。なぁ生安部長」
 阿部生安部長がうなずきながら言った。
 「これじゃ察庁報告ができない。各部が横断的にやるしかないようですね」
 会議を終えた笹原がデスク席に戻ったのは四時を過ぎていた。
… … … … … … …
 「笹原課長、警務部長がお呼びです」
 「いけねっ。忘れていたよ。来週は全国課長会議だっけ」
 笠原は、何気なく広げられていた地元紙の夕刊が目に入った。誰が見たのか乱雑に広げられていたことに腹が立った。
 そのころ竹内課長は、社会面の見出しに釘付けになっていた。

  隅田川の水死体は青森県の会社役員
    「兄の行方」求めて昨年暮れに上京
      左腕に新しい注射恨が…
          警視庁 死因の解明に全力

 三ヶ月ほど前に警視庁が手配した電報で見た被害者だ。新潟県の地元紙の夕刊社会面を飾っていたことで記憶していた。
 「左腕に注射恨か。薬物を大量にうたれるとショック死する場合があるからな…」
 読んでいるうち、どうしても引っかかるところがあった。
  …水死体は青森県三戸郡五戸町××、会社役員、金田正夫さん(四十歳)と分かった。金田さんは兄の悟さんを探すため上京し…
 「青森県三戸郡…被害者が金田…そして…五戸町…名前が悟…」 
 竹内は笹原の卓上電話にかけた。三度もコールするが出ない。いらついて受話器を置こうとした時だった。
 「もしもし…」
 竹内はいきなり切り出した。
 「新聞を見たかよ。これって偶然かな? お前の公安的な勘はどうみるかだな?」
 いきなりの言葉に笠原は
 「なんですか竹内先輩。なにが載っているのですか?」
 竹内の説明に、先ほどの夕刊を手にした。

 「これは!」

 笹原は警務部長に行く前にあわてて竹内のデスクに向かった。
 「先輩、びっくりしましたよ。この被害者は兄を捜している。そしてその兄が、我が社が追っているのと同姓同名…」
 笠原の次の言葉を遮るように竹内は
 「東京の捜査本部に照会するしかないな? それより現地(青森)に行く必要もあるだろう。空白の三十年間もあるしな…」
 竹内のデスク席の電話が鳴った。阿部生安部長からだった。多分、新聞のことだろうと思った。つづく

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