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2008年8月 1日 (金)

★小説 警視庁薬物特命捜査官(13)

    最愛の母の死

080713_164028_m  鬼頭少年の人生を変える出来事は小学四年生の始業式の日の下校時に起こったという。
 「校門を出るとしばらくは平坦地が続くんだよ。その村の繁華街さ。学校前には文房具店と駄菓子屋があり魚屋、大工さん、駐在所、郵便局などがお寺を取り囲むように集中しているんだ」
 鬼頭は続けた。
 「村一番のその集落を抜けると三、四㍍幅の道路が、数百㍍は直線になって両側には田んぼがあるんだ」
 「山間地とはいえ、四月ともなれば春の息吹を感じる季節さ。田んぼのあぜ道の水たまりには、オタマジャクシになるまえの透明の卵を見ることができるんだ。当時は遊びなんて少なかったからな。青っぱな(鼻汁)をだして外で遊ぶんだ。自然だけが遊び場だった」
 「兎追いしかの山…ですね」と高橋。 
 「だからさ、当時の子供達の最大の楽しみは学校帰りの〝道草〟さ。家に帰っても隣が遠いから、わざわざ遊びに行くのも面倒。そこで通学路が遊び場ってことだ」
 後ろから来た自転車が急ブレーキをかけた。鬼頭と高橋の二人は慌てて後ろを振り向いた。荷台に子供を乗せた主婦が困ったように会釈した。周囲を見ると歩道が狭く、二人並んでいると自転車の通行がではなかった。高橋が「ごめんなさい」と言いながら自転車を見送った。高橋は黙って続けて鬼頭の話しを聞くことにした。
 「その日は、俺たち同級生三人でオタマジャクシを探しながら歩いていたんだ」
 「そうしたらさ、遠くのほうでバタバタというバイクの音がした。村にある唯一のバイクでさ。魚屋の為さんのバイクなんだよ」
 対向してきた自転車をよけながら鬼頭は続ける。
 「道路の反対側で同級生の文ちゃんが『あった、あった』と叫んだからさ、俺は文ちゃんのほうに走って行った。道路と言っても三㍍ぐらいでよ五秒もあれば横断できるんだからさ。そうしたら…」
 鬼頭は息を飲み込んだ。
 「何十秒か過ぎたあと、バイクの為さんが俺のところギリギリにバイクを止めてさ。『バカ野郎>』って、怒鳴るんだよ」
 鬼頭は、その時の模様をさらに続けた。
 「血相を変えてな。『キサマ>バイクの直前を横切ったな。交通安全運動を知らねぇのか。始業式で教わらなかったのか>馬鹿者』っていうんだ」
 一呼吸おいた鬼頭。そして
 「怖くなり文ちゃんが泣き出してさ。俺は怖いを通り越して足がすくんだよ」
 鬼頭らは怖さのあまり何も言うことができずに立ちすくんでいたという。
 「怖いもあったが、やってもいないのに…。大人ってなんて勝手なんだろうとな」
 鬼頭は翌日の学校での話しに移った。高橋は話しから翌日の教室を想像した。それはまるで映画のシーンだった。

    
  

当時の学校では、朝の挨拶のあと出席をとってから授業が始められる。

      ………………………
  出席簿は生年月日順に呼び上げられるのだ。
  前日の出来事があり、鬼頭は朝から元気がなかった。
  佐久間先生の名前を呼び上げるだみ声が教室中に響いた。教壇から降りて
  教室の後ろのほうに歩きながら「石井、佐藤、小山、伊藤、木島……」と
  呼びあげていく。
  そして鬼頭は自分の番だと思った瞬間、背後から右耳下のもみあげを捕
  まれ、思いっきり立たされた。痛かった。涙が出た。先生は続けた。
  「これ、ビンコって言うんだ。俺流の体罰だ。鬼頭>なぜ、こうされるか分かるか」
  「お前はな、昨日の下校の時、こともあろうに交通安全協会長さんのバイ
  クの直前を横切ったらしいな。学校に抗議がきた。交通安全標語を言ってみろ」
  横切ったと言っても村の田んぼの中の砂利道でバイクはゆっくり走ってお
  り、しかも百㍍以上は離れていたはずだ。
  悔しくて涙が止まらなかった。文ちゃんが言った。
  「先生、バイクなんかだいぶ離れていました。それでも……」
  文ちゃんも泣き出した。結局、全体責任としてその日の午前中の授業は自
  習となり鬼頭は半日中、廊下に正座させられた。

       ………………………  
 「俺はよ。こんな理不尽な先生を許せなかった。学校の先生だぜ。嘘っぱちの爺の話しをもろに聞いていくら交通安全協会長といってもよ。ところがさこの糞先公、それだけではないんだ」
 高橋の空想映画のフィルムがまた回り出した。そして鬼頭は第二弾を続けた。

      ………………………
  そしてある日、母の出戻りでお世話になっている家のお爺ちゃんが木材の運び出しの
  ソリの下敷きになり病院に収容された。母親と離ればなれになっていた鬼頭が、甘え
  に甘えていたお爺ちゃんだった。
  数日後に「危篤状態」の診断に出稼ぎ先から母親が飛んで帰り、鬼頭も学校に「早退
  」を申し出た。申し出たというよりは、母親に手紙を書いてもらい先生に渡した。
  「なんだこれは。早退だって。フン、生意気言うんじゃねーの。お前とは血縁関係で
  はないんだろう。人間なんて早々死ぬものでない。授業が終わってからで十分だ」
  一括され、早退は許されなかった。鬼頭が病院に駆けつけたときはお爺ちゃんは既に
  、息を引き取っていた。
  「どうしたの長一郎。なんで早く帰らなかった」
  母が怒ったような顔をした。
  「おかぁさん…」
 鬼頭が母の懐に飛び込み、泣いた。嗚咽が止まらなかった。高橋は黙っていられなかった>

      ………………………
「その時から正義感が芽生えた訳ですね。お母さんはいつ亡くなられたのですか」
 「俺が二十五歳の時だよ。ようやく警視庁警察官になれて独身寮にいる時だった。仙台の消防署の救急隊から電話が入り、お母さんが脳溢血で倒れたので民間の病院に収容したというんだ」
 「飛んで行かれたのでしょうね」
 「行ったさ。仙台駅に降り立った時、ホームで眼鏡の左のレンズがバリバリと割れたんだ」
 「何もしないのにですか?」
 鬼頭の声のトーンが変わった。それは怒りの声から悲しみの声に変わっていた。
 「そう。不吉な予感がした。病院に行ったら、お袋の口の中に割り箸を差し込んであってな。寒い病室でたったひとりでぜーぜーいっていた」
 鬼頭の声がつまった。
 「ありにもむごい姿なので割り箸の件を看護婦さんに聞いたさ」
 「痰(たん)がつまるんで割り箸はそれを防止するためというんだ。割り箸だぜ。むき出しの。無理矢理に噛まされたのか唇から血が出て既に固まっていた。とにかく病室は震えるぐらい寒いんだ。何が何でも暖かい部屋に入れてやりたくて消防署に行って別の病院への転院を頼んだ」
 「そうしたら救急隊員が言うんだ。動かせない状態なので場合によっては生死を分ける危険性があるとね」
 遠くでサイレンの音が聞こえた。鬼頭はさらに続けた。
 「それでも俺は頼んだね。どうせだめなら、せめて暖かいところで死なせてやりたかった。今までの親不孝があるからな……」

 「結局俺の願いに救急隊が動いてくれてさ、市立病院の個室に移されたよ。ありがたかった」
 鬼頭は、一呼吸おいた。
 「結局、十四日入院しても意識はなかった。病院長が言うんだ。夜中にな。『心臓だけはこのまま動かし続けてもいいんですが脳がドロドロになります…』とね」
 「暗に管を抜いたほうが…だと思った。早く楽にしてやりたかった。『お願いします』と言ってしまったよ。昭和四十四年十二月十六日午前二時二十分。五十二歳だった」
 「お母さんとは話せなかったのですね。最後に会ったのは?」と高橋。
 「昭和二十四年に警視庁に行く時、仙台駅で見送ってくれた。『東京に行ったら大変だろう』って、プラットホームで自分の財布を出して二、三百円の小銭を残して残りを俺にくれた。全部で二千七百円あったよ。自分で残したのは帰りのバス代だったんだ」
 高橋の目から涙がこぼれた。ようやく声になった。
 「当時の二千七百円は大変な額でしたね」
 鬼頭の顔が歪んだ。
 「今から見ればな…別れ際のお袋の表情が忘れられないのだよ」
 高橋はただ頷くばかりだった。
 「なんて言うか…妙に…寂しそうに…。表情が…。最後だと感じ取ったのか…息子の晴れ姿に安心したのか…いや、息子の巣立ちを見送る母親の顔だったのかな…」
 鬼頭の声が突然、裏返った。
 「救急車で…」と言いかけて、咳払いをした。声が戻った。
 「救急車は自分で呼んだのではなく亘理郡にいるお袋の妹に電話をしたらしい。そして『どうしたことか体半分が痺れているの。長一郎から連絡があったら言ってくれない。短気を興すんでないぞって…』と言ったあと、声が途切れたという」
 「妹は『お姉さん』『お姉さん』と呼んだが応答がなく、大変なことになったと思い一一九番で救急車を呼んだらしい」
 「『短気を起こすな』が俺にくれた最後の言葉さ。遺言であり全財産だった。俺は既に今、お袋の人生を過ぎているが、お袋は本当に良い人生ではなかったんだ…」
 鬼頭はここまで言って声をさらに詰まらせた。いくら高橋でも、あの悲惨な〝特攻帰り〟の父親による家族への日常的な暴力行為は話せなかった。そして自分には弟がいることも…
 高橋はしばらく声を出せなかった。日本一の薬物捜査官を生み出す動機となった話しであるが一方で人生の最大の別れのシーンでもあった。
 二人はいつの間にか広瀬川に到着していた。つづく

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