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2008年7月 4日 (金)

★小説 警視庁・薬物特命捜査官 (9)

   広瀬川の水死体

060121_084324_m 仙台駅でタクシーを拾った鬼頭は、暗くなる前に現場を見ておきたかった。駅から現場までタクシーで五分もかからなかった。青葉通りを西に向かい、右手に天文台のある桜ヶ丘公園横の緩やかな坂道を100㍍ほど下ると死体発見場所の大橋である。
運転手の話によると、広瀬川の西岸はかつては米軍の住居地域だったが、戦後、米軍撤収のあとは、壁が白く塗られた木造の施設が点在、東北大学の川内校舎として利用された時代もあったという。現在は建物だけが残っていた。
 

  青葉山はその南西側の八木山へと繋がり、その八木山には東北最大の動物園「八木山動物公園」がある。同市が動物園を開園した昭和四十年代では「放し飼い方式」の動物園として話題を呼んだ。
 付近一帯は、青葉城公園と呼ばれるほど自然のままの姿を残し、仙台市立美術館、仙台市博物館など公共施設も整備されている。市街地といっても、百万都市の都心から車で僅か10分程度の位置にある文教地域。広瀬川はこの文教地区に沿って大きく右に蛇行。市の南に位置する長町付近で、名取川に合流する。
 今回の事件は、このような閑静な文教・公園地域で発生した殺人事件だけに地元では大変な話題を呼んでいた。現場までタクシーを使うには近過ぎる距離だったが鬼頭は〝足代わり〟に敢えてタクシーを利用した。それでも運転手は文句を言わなかった。
 「おぎゃく(お客)さんは、とうちょう(東京)の文屋(記者)さんがね」
 鬼頭が返答に困っていると、「案内でもすますか」と、東北らしい〝人懐っこさ〟をみせた。心の内側を読まれたようでドキリとした。
 運転手は、「死体は広瀬側の橋桁の淀みに浮いていた」といい、橋の上から突き落とされたというよりは上流で遺棄された可能性が高かった。
 「しま(暇)だから、おれ、あの日、ずうーっとみでいだべさ」。
 この言葉に鬼頭は、聞き込みをする時間が省けた。運転手から現場の詳細を十二分に聞き出すことができたのである。
 「すんだ(死んだ)人だけど、みず商売のおなご達のあいだでは、なぬが有名な人らしいねぁ、国分町あたりだが…」
 運転手は、何も気にすることなく、ベラベラと喋り続けた。
 「国分町のスナック雅のママさんなんか、前の日に会ったばがりだったっていってだべさ」
 さすが、情報通である。「その土地の美味い食べ物屋はタクシー運転手に聞け」と言われるようにタクシー運転手はその土地の情報屋なのだ。鬼頭は運転手の言う「雅」のママさんに会って話しを聞く必要があると思った。
 しかし、運転手の言う新聞記者にしては名刺がないし、かと言って刑事と名乗る訳にもいかない。日が暮れる前に今夜の宿を決めなければならない。運転手に聞いてみた。
 「なぁーに言ってるんだべさ、さぐなみ(作並温泉)がいいんだよ」
 運転手からは、近郊の温泉地を勧められたが、仕事上、そのような心境にはなれなかった。返事に窮していると、さとったのか駅前のビジネスホテルを紹介された。そのホテルからだと「雅」のある国分町は、歩いても十二、三分で行ける距離だった。
 駅前のホテルから青葉通りを西に進み、市内最大の商店街、東一番町の次の交差点を右折した通りの延長線上に仙台一の歓楽街・国分町がある。駅前の青葉通りの一本北側を東西に走るメーンストリート広瀬通りを中心に国分町は北側と南側に分断され、北側が歓楽街だ。
 「雅」は、国分町の真ん中の東一番町寄りの袋小路の奥にあった。碁盤の目のような都市なので分かりやすかった。営業時間は午後八時から午前二時までだという。
 「まだ二時間はあるか」。鬼頭は繁華街の散策で時間を潰すこととした。東一番町のアーケード下を北に歩いていると、まもなく定禅寺通りに突き当たった。クリスマスシーズンになると、ケヤキ並木にイルミネーションが取り付けられるところだ。
 鬼頭の在仙当時はそのようなイベントはなかったが、いつ頃か警視庁に入ってニュースで見て初めて知った。
 「あれから三十年か…」。途端に鬼頭は、胸が絞め付けられるように痛み、やがて偏頭痛へと変わった。腕時計を見た。八時七分前だった。「雅」では、推理小説好きのセールスマンを名乗ることにした。
 「いらっしゃいませ。おひとりですか?カウンターにどうぞ」
 二十代だろうか、カウンターの中にいた、瓜実(うりざね)顔の女性が笑顔で出迎えた。ママさんには、ちょっと若過ぎる年齢だと鬼頭は思った。声は一オクターブ高いが、透き通るような美声だった。〝仙台美人〟というよりは、秋田美人の顔だ。
 「ママさんですか?」。鬼頭も笑顔で聞き返した。
 「私はアルバイトの京子で~す。ママはまもなく来ますよ。お客さんは仙台は初めてですか」
 「分かりますか? 田舎者に見えるでしょう」
 返す鬼頭の言葉に、京子は困った顔をした。
 陳列棚のボトルを見ると、懐かしい「ジョニーウォーカーのブラック」から、「アーリータイムス」「サントリーオールド」など庶民的酒類が多く並べられていた。鬼頭は「庶民的な店だな」と思った瞬間、京子の声がした。
 「日本酒もあるんですよ」
 先ほどの困った顔が笑顔に戻った。
 「浦霞という地酒もあるんです。ママは升酒で塩を肴にこの酒を飲むんですよ」
 京子ちゃんは随分と人なつっこい娘だと鬼頭は感じた。
 「いいね。それにするか?」
 「やだぁーっ、お客さん。いきなりいくの?。いっしょにいきません。最初はビールにしません?」
 鬼頭はなぜ?「一緒に飲もうか」と言えなかったのか…せっかちで悪い癖が出てしまった自分が恥ずかしかった。「だから女性にはもてないのかもしれない」と思った。京子ちゃんに言われるまま鬼頭はビールを注文して、二人でグラスを傾けていた。「なにから話し出そうか」と思っていたら、和服姿の美人が入ってきた。まさに「小股が切れ上がった女」だった。
 「こんばんわぁっ。こちらさん京ちゃんのお友達?」
 ホステスも美人ならママも鬼頭好みのタイプだった。とりあえず三人で乾杯することにした。たわいもない会話で盛り上がった。
 「お客さん、東京から?。出張で来られたのですか?」
 鬼頭は考えた。仕事の素性を明らかにするわけにもいかない。宮城県警と警視庁が共同捜査本部でも組んでいれば、堂々と名乗ることもできようが、今は他県警の身。県警の立場を考慮すれば嘘を言う以外になかった。かと言って、この店に来た主たる目的は、広瀬川殺人事件の聞き込みだ。鬼頭は、商社員だと前置きしてから言った。
 「マスコミにいる友達を訪ねて来たのだが、殺人事件があったらしく、忙しそうで会ってもらえないのですよ。仙台は初めてでないので、適当に遊んでいると言うわけで……」
 「そうでしたの? 殺人事件ねっ。それがねぇ、あの殺された方は…」
 店内には自分が唯一の客で安心したのか、鬼頭が「推理小説マニア」だと言うと、ママが事件の事で喋りだした。
 「京ちゃん、何日前だったかしら…」
 ママが鬼頭の顔を見ながら、京子に話しかけた。
 「ママ、事件の三日前よ。藍ちゃんが休んだ日。いえね、実はきょうは休んでいるのですが、もうひとりいるんです。超美人が…」
 京子はペロリと舌を出しながら鬼頭を見た。
 「そうそう、あの日よ」とママ。そして続けた。
 「二、三カ月に一度しか来ないのですが、だが来店し始めると何日もまとめて来るお客さんで、とても金持ちの人のように思われました。最初は船乗りかなと思ったのですが、それも違うようで……。仕事の内容は分からないのですが、気っ風の良い人でね。国分町ではありがたいお客さんでした。店では韓国人のようなので朴さんと呼んでいたんです。いつもは何日か続けて来るんですが、あの日は一日だけなので、どうされたのだろうと思っていたら…亡くなったんです。あの事件の被害者なんですよ」  
 「日本人より気っ風が良いってわけですか?」
 ママのコップにビールを注ぎながら鬼頭が言った。
 「ごめんなさい。そう言うわけではないんですが、とにかく、何人か連れてきて一晩にヘネシーのVSOPを数本も空けてしまう人なんです」
 京子が口を挟んだ。
 「そう。ママさんにチョー惚れているようで、必ず『こんどは香港に案内するよ』って言って帰るの。実現しなかったけどね」
 ママが続けた。
 「どこに住んでいるのですかね…。数か月に一度しか来ないのは…。大富豪だったりして…」
 鬼頭は、間髪を入れずに聞いた。
 「朴さんがよく一緒に来たお客さんと会えるかな?ママ」
 こう質問した鬼頭は「しまった」と後悔した。
 刑事の地が出てしまったことを悔やんだ。
 「友達の記者が一緒にいたら、ママの話しを喜んだろうな」と付け加えた。
 これから話しが佳境に入ろうとしたその時、女性を連れた中年の恰幅の良い男が入ってきた。時計を見たら十時を回っていた。鬼頭は酔っていた。入って来た男の素性を知りたかった。
 「もしかして…」と思ったが、気が引けた。
 「被害者は韓国人か中国人で『ボク』と言う名の男と分かった。しかも数ヶ月に一度来店ということは、その間は仙台から離れて仕事をする男ということになるだろう」
 鬼頭は、下の名前や仕事についてヒントになるものを知りたかったが、ちょっと酔い過ぎていた。「今晩はこれくらいにして明日また、来よう」と会計を済ませて店を出た。
  鬼頭が仙台時代、よく通ったラーメン店に「五右衛門ラーメン」という店があった。 北海道ラーメンの走りだった。食べてからホテルに帰ることにした。当時は独身だったこともあり、好物だった味噌ラーメンを良く注文した。モヤシ、ピーマンなど野菜が豊富だったことを鮮明に記憶していた。
 酒を飲んだ後、「極太で縮れ麺を自己主張しながらザ・野菜を誇示する濃いめの味・ラーメン」は、独身男の自分を引きつけた。
 その店が、国分町の北の外れにあり、いつも、酔客で行列ができていた。そんな思い出を抱きながら訪れてみた。違っていたのは「髭の店長」の姿が見えないことと、さすが、行列はなくなっていた。
 反面、店長が代わっても、よく同じ店が続けられたものだと鬼頭は感心しながら、味噌ラーメンを注文した。味は変わっていなかった。懐かしい思い出を胸に、ホテルに着いた鬼頭は、シャワーを浴びて深い眠りについた。

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