« ★山本モナ、巨人・二岡との不倫報道で情報番組「サキヨミ」の出演見合わせ あぁ~もったいない | トップページ | ★遅刻生徒83人に「げんこつ指導」 “熱血”教諭が謝罪  なんで謝罪するんだ! »

2008年7月11日 (金)

★小説 警視庁薬物特命捜査官(10)

 母の手の温もりは…

080713_164028_m ……左手に温もりを感じた。確かに母親の手だった。私の左手をしっかり握りしめ、ゴロゴロとした石の転がる坂道を降りている。母親の左手には提灯(ちょうちん)があった。眼下には月明かりの阿武隈川が畝っていた。
 阿武隈川は福島県西白河郡の旭岳を源に、宮城県の岩沼市と亘理町の境付近で太平洋に流れ込む全長239㌔㍍の一級河川だ。大野村付近は川幅が狭く急流になっている。左岸を国道が走り、鬼頭の小学校時代は台風時には道路が冠水するまでに増水。鬼頭の家も水没するなどの何度も災害に遭っていた。
 その川に、対岸の山々はシルエットに重くのしかかってくる。光輝く川とは対照的だ。アンバランスが不気味でもあって、冷え冷えとした光景だった。
 聞こえてくるのは阿武隈川のせせらぎの音だけ。終戦直後で都会では復興の息吹がそろそろ出始めても良い時期だが、東北の片田舎では物不足のまっただなか。
 石につまずき転びそうになる我が子の手をしっかり握る母の手は、真冬の寒さで悴んでいた。柔らかく暖かいはずの母の手は、アカギレでゴツゴツしている。
 

  炭焼き小屋だろうか焦げ臭いが鼻を突いた。
 阿武隈川に、へばり付くような山間の集落の産業は、蚕と木炭の生産が生計の中心。その木炭は土で固めた「炭焼き小屋」という独特の窯で十日以上もかけて焼き上げられる。
 坂道がさらに急になった。まるで、母子を地獄の底に落とし込むような急勾配になった。子供の鬼頭にとって阿武隈川は煮えたぎるマグマにも見えた。
 私は母の顔を見ようとしたが、怖くて見られなかった。
 「ごめんね」
 かすかな声が聞こえた。それは震えていたような気がした。
 「ごめんね」
 「ごめんね」。
 母親は何度も繰り返した。繰り返すたびに、手を握る力が増した。
 「おかあさん、そんなことないよ」
 私は絶叫した。その絶叫で目が覚めた。前身が汗で濡れていた。ひどい寝汗だった…………
 
 「なんでこんな夢を見たのだろう」
 鬼頭は時計を見た。午前二時を過ぎたばかりだった。昭和十九年十一月生まれの鬼頭の過去を知る人は少ない。自慢するような話ではないので妻にも言っていない。当時を思い出すと胃がキリキリと痛んだ。そして吐き気がしてきた。眠ろう。眠らないと明日が辛い。しかし、夢の続きを見るのが怖かった。
 …………………  …………………   …………………
 電話の呼び出し音で目が覚めた。風間理事官からの電話だった。
 「どうした?」
 「あっ、お早うございます。どうもしませんよ」
 いきなり、どうしたと聞かれても鬼頭は答えようがなかった。
 「こっちから幾つか報告しておきたいことがあるんだ」
 と電話の目的を告げたあと風間はさらに続けた。
 「1・8・6・0・7・0・5・3・8・8……という例の変な数字は、電話番号だったよ。点を取ると最初の186は非通知を解除するときに頭に付ける例の番号だ。あとは携帯番号。共通性があるので察庁と相談して共捜にしようかと思っている。記者には発表せずにな」
 「その番号の相手は分かったのですか」と鬼頭。
 「架けると『現在使われていません』のガイダンスが流れているため捜査関係事項照会でやっている」
 謎の数字は電話番号だった。そして、その番号は東京と仙台の事件を関連づけたのだ。鬼頭は、「ついでで申し訳ありませんが…」と前置きして、昨夜の結果を報告した。
 「こっちの死体は韓国人か中国人の可能性が高くなりました。朴という名字だそうです。二、三カ月に連続で数日間だけ現れる飲み屋を割り出して聞きました」
 風間は黙って聞いている。
 「数人の友達を引き連れて現れ、一晩に五、六万円飲んで帰るらしいんです。その店のママに惚れていて香港に誘ったこともあったそうです」
 「ほー、着いたばかりで良く割り出したな。もしかして場所は国分町?」と風間。
 良く知ってるなぁと思いながら鬼頭は続けた。
 「そうなんですが…」
 鬼頭は風間に「何で国分町を知っているんですか」と聞きたかったが続けた。
 「で、死体発見の三日前に現れたというんです。いつもは連続で来店するのに今回は一日だけだった。県警はかなりの情報を持っていると思います。我々としては理事官の言う共同捜査のほうがやりやすいのではないですかね。一課は、どう言っているのですか」
 鬼頭に緊張感が走った。もう夢どころではなかった。
 「一課も同じ考えだ。当然、共捜になるだろう。それともうひとつ多摩川署は順調にいっているらしい。さらにだ、朝洋商事関係でひとつ進展があったよ」
 「なんですか?」
 鬼頭は胸が高鳴った。風間は続けた。
 「あそこから金借りてその後、破産宣告した女がいて、新潟市内の女らしいがその女宅で朝洋の社員がトラブルになった」
 覚せい剤所持のイラン人が捕まった事件の突き上げ捜査を進めている多摩川署からの報告だった。風間は続けた。
 「警察署員が駆けつけると今度は朝洋の社員が警察官を殴ったという」
 「それで逮捕した?」
 「そう逮捕した。あそこは九州沖であがった携帯の所有者がいたよな」
 あそことは、新潟市内のことである。
 「いました。たしか金田悟とか言いました」
 金田悟に関する捜査は警視庁と新潟県警の合同捜査になっていた。そして、とりあえず現場のある多摩川署が〝ネタ〟を捜していたのだった。
 「朝洋は正式な貸し金業ではないから貸金業法違反の疑いは出てきたわけですね」
 鬼頭の声が弾んだ。
 「入り口だけは見つかったんではねぇか」と風間。
 「理事官、私は戻ります。朝洋が心配ですから…」
 「いや、帰らなくて良い。そっちを見て欲しい」
 「しかし、海の物とも山の物とも分からない事件ですよ。こっちは…」
 鬼頭の言葉の途中で風間が声を荒げた。
 「そうじゃない。こうして君には全部報告している。全体的に実査してほしい。今回の一連の事件は広域も超がつく。警察庁の方針でもあるんだよ。重森さんが君をオペレーション段階から呼んだのも鹿児島県警に出したのもそれが狙いなんだ」
 さらに風間は続けた。
 「これを都県境を超える薬物捜査の前例にしたいものだと思っているんだ。それに国分町の聞き込みも済んでないんだろう?」
 鬼頭は、風間に悪いことを言ってしまったと思った。
 「分かりました。すみませんでした」
 「疲れたら、遠慮なく温泉にでも行って頭を冷やして来い。君は特命そうさくかん(捜査官)なんだから…。(ネットでも)捜さく(捜索)してみろよ。さく並(作並)温泉という字が出てくるだろう?」
 電話はそう言って切れた。風間独特の〝親爺ギャグ〟だ。
 鬼頭は荻窪の自宅に電話を架けた。
 「もしもし、俺だけど」
 「どうなさいました。仙台ではないんですか?」と妻。
 「ちょっと今年の年賀状を見てくれないかな。名前は高橋清則。仙台市の住所と連絡電話番号が分かったら携帯に電話をくれないか」
 「分かりました。それから幸子なんだけどね、今度、松島に友達と行きたいと言っているの。パンフレットでも良いからそっちの資料を貰って来てよ」
 幸子は長女で二十八歳にもなるが結婚もしないで、未だに親の家に〝ヤドカリ〟の状態なのだ。
 鬼頭と妻の絵美が結婚したのは昭和四十九年。東京・丸の内で白昼、三菱重工業本社爆破事件があった年だった。
 女性警察官だった絵美は、静岡県出身で鬼頭とは四つ違いのスレンダー美人。本部交通総務課では〝ミス紙芝居〟として話題の女性だった。
 当時、警視庁では広報活動の一環として紙芝居を導入。交通安全のPRのため有志で紙芝居団を結成。各警察署回りをしていた。
 もともと、鬼頭は芸能人にあこがれ、なかでも青春時代には日活女優の北原三枝が大好き人間。石原裕次郎と結婚した当時は、嫉妬心から阿武隈川の橋の下で高校生ながら焼酎をがぶ飲みして補導された経験を持っている。
 石原慎太郎原作の「狂った果実」に酔いしれた。
 裕次郎と北原三枝がヨット上で絡み合うシーンは、思春期の高校生の性刺激には十分だった。映画を見ていてパンツを汚した少年も多かった。
 妻の絵美は、北原三枝とまではいかないが警視庁の紙芝居団員の〝声優〟としてチヤホヤされる〝スター〟的な存在。田舎出身の鬼頭にとっては高嶺の花にみえた。
 どうしてアタックしようかと日夜悩んだ鬼頭は、台東区内のある小学校で開かれた交通安全の集いの紙芝居大会で、絵美に百本のバラの花束を渡した。それが縁で交際を始めたが、安月給で見栄をはるものだから、たちまちサラ金地獄へ堕ちた。
 その借金は、結婚式のお祝い金から清算している。だから、今でも絵美に頭が上がらないのだった。
 数分後に絵美から電話があった。高橋は仙台市泉区に住んでいて、宮城県警の機動捜査隊に在籍していた。
 「それから貴方、村橋さんの結婚式は出席できるのですか?」
 「何時だっけ?忘れていたよ。行けなくなったというよりは特命という仕事柄、いまは顔を出すわけにはいかないんだ。悪いけど電報うっておいてくれないかな」
 それより、鬼頭は警察大学の警部任用科で同期だった高橋と話したい衝動に駆られ、電話を架けてみることにした。
 「はい、高橋です」
 「警視庁の鬼頭です。ご無沙汰しています」
 「おーっ久しぶり。今、ヤク(薬)の特命やってんだって。で、何かあったのかね。何時でも協力するぜ。なにしろ天下の警視庁さんだからな」
 鬼頭は「なんで奴はオレが特命だということを知ってるんだろう…」と思った。
 「今夜、時間あるかな。仙台にいるんだ。どうかね、久しぶりに飲みたいね。積もる話しもあるし……」
 高橋は二つ返事で引き受けた。二人が落ち合ったのは国分町の牛タンの店だった。(つづく)

« ★山本モナ、巨人・二岡との不倫報道で情報番組「サキヨミ」の出演見合わせ あぁ~もったいない | トップページ | ★遅刻生徒83人に「げんこつ指導」 “熱血”教諭が謝罪  なんで謝罪するんだ! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/514231/41805404

この記事へのトラックバック一覧です: ★小説 警視庁薬物特命捜査官(10):

« ★山本モナ、巨人・二岡との不倫報道で情報番組「サキヨミ」の出演見合わせ あぁ~もったいない | トップページ | ★遅刻生徒83人に「げんこつ指導」 “熱血”教諭が謝罪  なんで謝罪するんだ! »