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2008年5月30日 (金)

小説 警視庁・薬物特命捜査官(4)

   ★通信傍受

 話しは風間に代わった。
 「この史上最大の作戦を成功させるためには、今回押収した携帯にある新宿歌舞伎町の中国人経営の貿易商、朝洋商事の解明にポイントがあるように思えてならないのですがご意見がありますか」
 老年の捜査員が手を挙げた。
 「しかし、海保の例に見られるように情報が漏れて一部報道が先行するなど困難を伴うのは目に見えている。警察庁は威信をかけて成功させると言っているが、警察庁を含めて各県警の情報漏洩などは防げるのか」
 「朝洋商事を経営している帳亭植という五十四歳の男は、外国人検索システムで検索ができることになっています。携帯番号から行動範囲までの全てが、北海道警から沖縄県警までボタン数回叩くだけで可能なんです。しかもそれは、警察署単位なんです。ですから絶対に漏れないという保証はない。あとは警察官の資質に頼るしかないのではないですか」
 と、重森が答え、老年の刑事の顔を見ながら、こう、言った。
 「問題は海保なども含めて政府関係者への会議などでの途中経過報告なんです。これだけは警察庁が中心になり責任を持ちたい」
 風間はこの議論を聞いていて、老刑事が言いたかったのは「警察庁長官銃撃事件や広域指定116号事件(朝日新聞襲撃事件)での刑事部、公安部を巡るゴタゴタ」だろうと感じ取った。

 重要事件になればなるほど、そして指揮権が垣根を越えると刑事部がどうだ公安部はどうのこうのと醜い指導権争いを繰り返す。
 最後に責任は誰がとるのかを含めて、長期になればなるほど、どこからか綻びが出てくる。そして最後は責任のなすり合いになる。これが現実なのだ。このことを老刑事は主張したかったのだろうと風間は思った。会議は具体的な捜査方針へと移った。
 朝洋商事の所在は東京・新宿区歌舞伎町。本来なら管轄は淀橋西署になる。だが、風間は部長の永堀と打ち合わせした結果、捜査の指揮は新橋分室が行い、高知沖事件で捜査を担当した城西署と下町署の捜査員をそのまま継続することとした。
 数年前から警視庁が実施している歌舞伎町対策と同様の捜査手法が取り入れられたのである。
 歌舞伎町手法とは、日本一の繁華街を抱える東京都が犯罪の温床ともなっている同地区の浄化作戦を官民挙げて展開することを決定。東京都の石橋知事は、警視庁に対して生安、刑事、警備、交通と各部の総力を挙げた集中取り締まりを要請した。
 警視庁はこれに応えるため所轄警察署だけでなく、どこの警察署でも管轄権を超越して捜査ができるようにした。現在の内閣府危機管理官で当時の警視総監の提案だった。
 翌日から、朝洋商事〝本丸〟に対する内偵捜査に着手した。特に、社長・帳の行動の把握はもとより、社員に対する監視も強化された。
…………………………………………
 「やぁしばらくでした」
 鬼頭が捜査本部のある城西署に出勤したのは約一年半ぶりだった。捜査本部と言っても特別捜査本部とは違い、下町署と城西署、生活安全特捜隊員の一部を集めた二十人体勢で、キャップには特命捜査官の笹森が充てられた。
 鬼頭は、城西署生活安全課保安係五人で暴力団・篠原組東京支部を担当していた。そして今回は、同じメンバーで朝洋商事をも担当する。
 「朝洋商事は貿易のほかに古物商のようなこともしており、最近は金融関係にも手を出しているようだ」
 保安の係長が鬼頭に言った。
 「車は何台持っているかだが、最低でも帳の車のナンバーでNシステム監視をやろうじぁないか」
 「携帯にあった固定電話の通信傍受はできないだろうか」
 城西署生安課長が発言した。
 「携帯に残っていた番号は、マスコミに報道されてから番号を変えている。番号が変更された現状では、令状(通信傍受捜査令状)は簡単にはおりんだろう」と鬼頭が言った。
 「とりあえず、傍受の令状を目指した捜査に重点を置きますか」
 かつて刑事部捜査一課に在籍した当時、江東区木場の不動産賃貸業者に対する連続強盗・殺人事件で通信傍受を実施した経験のある佐藤が発言した。
 佐藤は現在、鬼頭の後輩であり特命捜査官の警部補だ。
 「七、八年前になりますが、江東警察管内で不動産業者が殺された強盗殺人事件がありました」
 佐藤は当時、捜査一課の強行班七係に在籍していた。
 「四十九歳の経営者宅に複数の男が押し入り、二百五十万円入りの金庫が強奪され、現場で経営者が惨殺死体で発見された事件かね」
 生安課長が切り返した。
 「ところが、事件の十日前に社長が経営する会社内で、というよりは不動産屋の店舗なんですが強盗未遂事件が発生していたんです」
 佐藤は続けた。
 「この事件で中国人を含む複数の男が浮上したんですが、どうも、不動産屋の中に手引きした者がいるのではないかという疑問が出た」
 佐藤によると江東署捜査本部は、強盗殺人事件直後に、未遂事件で浮上している複数の男達の通信の傍受を申請したというのだ。現在の通信傍受法が成立する前の話しである。
 「忌まわしい事件だった。しかし現在のような厳格な法律がないため、当時は令状は比較的容易におりたんだよなぁ。当時は盗聴行為呼ばわりされ、公にはしていないが、捜査には多いに役にたったもんだよ」
 つまり傍受対象事件の前に発生した未遂事件で、容疑線上に浮かんだ四人の男の携帯電話と、手引きした男のデスク席の固定電話が傍受の対象とされた。
 その結果、強盗殺人事件後に次のような通信記録が得られた。
 男A「何で、あのときは今回のようにいかなかったんだよ」
 男B「そうなんだよ。だいたい金庫の位置も違うんだよな。Cの野郎がボケてんだよ」
 男B「いや、それよりも今回は実入り金額が少なかったな。えっ」
 男A「これじゃCの分け前を少なくしないと…」
 つまり強盗殺人事件と未遂事件では、金庫の位置が違っていたこと。殺害事件では金庫内の現金が予想以上に少なかったこと。手引き者の取り分が少ないことなどの通話記録が得られたのだ。こうした記録を元に四人は未遂事件と強盗殺人事件の容疑で一網打尽にされた。通信傍受が功を奏した事件だった。
 佐藤は、説明を続けた。
 「あの当時と違って、今の傍受は極めて難しい。簡単に令状がおりないのですよ」
 「どういう事ですか?」
 生安課長が聞き返したのに対して、鬼頭が答えた。
 「薬物捜査では、平成元年のコロンビア人らによるコカイン密輸入事件、翌年のフィリピンからの大麻密輸入事件、オーストラリアへのヘロイン密輸事件などで通信傍受は大きな力を発揮しているが、通信傍受法ができてから令状そのものがおりない……」
 「容疑をしっかり固めることは勿論だが、問題は、通信傍受が最後の捜査手段であることを立証しなければならないのです」と鬼頭。顔の表情は引きつっていた。
 一呼吸おいて佐藤が続けた。
 「しかも、令状請求書に書かれる事項は警視総監に報告して事前決済が必要なんです」 「そうすると簡単に別件請求はできないのか……」
 生安課長は、警務と交通畑が長いため、傍受法の手続きなどは知らなかった。
 「そればかりか、いざ傍受の令状が出たとしてもスポット傍受と言って、のべつまくなしは聞けないんです。数分聞いて数分中断する。この繰り返しなんです」
 「さらに、さらにだよ。傍受期間は十日間と決められ、第三者の立ち会いが必要なんだ。勿論立会人は消防官など公的な人間だがね」
 「実施すれば記録の保存が義務づけられて裁判官に提出することから、会話の中に狙った容疑内容が含まれなかった場合でも日数が限定されているため傍受は何の意味もなくなります」
 捜査には使いかっての悪い法律に現場からは不満の声が多く出ている。
 「それに今回は、マスコミに出てしまい相手は携帯番号を変えてしまっている。いや、持っていないかもしれないとなれば……」
 鬼頭はマスコミを恨んだ。
 「それじぁー別件を捜しますか……」
 鬼頭の苛立ちをみてとった生安課長が言った。
 「だめです。それでは令状はおりませんし、後に国会に報告されます」
 佐藤は即座に否定した。そんな甘いものではないのだと言いたかった。
 物事は時代の流れとともに進化する。犯罪組織は国境を越えてグローバル化が進み、通信手段は十年前には想像すらつかなかったほど進化した。携帯一本で中国や韓国といつでもどこでも会話ができる。
 特に今回の事件で驚いたのは、出入国の制限が厳しい北朝鮮に、プリペイド式の携帯が渡っていたことだった。それが発見された。こんな時代なのに、取り締まる側の〝武器〟となるはずの捜査手段「通信傍受」が、時代に逆行していることに鬼頭は改めて憤りを感じた。
 「盗聴と言われようと何と言われようと、犯罪捜査に役にたてばいい。それがプライバシー、プライバシーと言って人の命どころか国家も救えなくなっているのが現状だ」
 「通信傍受は難しい、囮(おとり)捜査もだめだ。司法取引もだめだ。警察官でありながら、けん銃もおいそれと使えないのでは、手足がないのとおなじだよ」
 鬼頭にとってさらに気がかりなのは、組織犯罪対策部なる新たな構想があることだ。警察庁が、FBI(米連邦捜査局)方式の導入を検討した際に、同時に浮上した案だ。特命捜査という専門捜査部門は残るのだろうか。
 「幹部ばかり増やして俺たちは誰に従えばいいんだ。ひとつの課に警部補や警部ばかりが多すぎる」
 第一線の警察官の間にはこんな不満が鬱積(うっせき)していた。
 朝洋商事に対しては「あらゆる法令を適用した捜査」とする警視庁方針が示された。それを受けて生安部は、生活経済課員をも投入し外為法違反を視野に貿易面の収支調査も開始した。暴力団との繋がりが明らかになれば刑事部の投入もあり得る訳だ。
 事務所周辺には捜査員が配置され、朝に出されるゴミのチェックの指示も出された。外交員と見られる社員には尾行がついた。
 出入りする不審な人物に対する職務質問は徹底された。社長車両をはじめ数台の車がNシステムに登録され最大限の活用が下命された。

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